正しい努力だけが人間を磨く。

苦労とともに生きた、野村元監督の野球人生のすべて

 

「苦労は買ってでもしろ」と心から思う。

現役を退いてから、その差は広がる。

私には、苦労してきたことの自負心がある。

何かあるといつもその苦労を思い起こし、頑張ってきた経験がある。

ボロボロになるまで現役にこだわったのは、

ブルペンキャッチャーとして入団した、辛い経験があったからだ。

最後は不器用が勝つ。

なぜなら不器用な人は、器用な人が未経験なことを経験しているのだから─────。

苦労が人間を磨く理由としては、「思考」「感性」「勇気」が自然と育まれるからであると言う。

①「どうにかこの状態から抜け出したい」と本気で願うとき、現状の苦労から抜け出すための方法を一生懸命「考える」という習慣が育まれていく。

─────────「思考」

②そして「自分には何が足りないのか」を考える。

すると今度は、自分や周りの人間が置かれている状況や心理、変化を敏感に察知するようになる。

─────────「感性」

③さらに「何かを変えなければいけない」ことに気づけば、苦労から抜け出すために新しいことに果敢にチャレンジする「勇気」も身についていく。

─────────「勇気」

 

苦労とともに生きた、野村元監督が「凡人」だからこそ成功できたという、その「正しい努力」の方法を語る。

 

以下あとがきより抜粋

 「ボヤキのノムさん」と言われてきた。

 本書でも、「思考」「感性」「勇気」を磨こうとしない今どきの選手や監督、コーチに対するボヤキをたくさん口にしてしまった。

 今は野球に関する最新の理論を簡単に入手できる時代だ。テレビのBS放送では、毎日のようにメジャーリーグ中継がおこなわれている。またトレーニング理論も発展し、科学的かつ効果的な体調管理や筋力アップの方法などが編み出されている。 

 しかし選手たちの多くは、情報が多くなったぶん、その情報を吸収するだけで満足しているように感じる。監督やコーチにしてもそうだ。

 私の現役時代と比べて、確かに日本の野球のレベルは上がった。けれども私たちの頃は、情報が少なかったからこそ、いかにすれば目の前にいるバッターを打ち取れるか、またピッチャーを攻略できるか、必死に自らの頭で考え、工夫し、実践していた。だから本書でも触れた稲尾和久と私の戦い、福本豊と私の戦いのように、知力をかけた勝負を繰り広げることができた。

 人は考えることをやめたら、進歩も止まってしまう。今のプロ野球界を見たときに、私にはそれが怖い──。

原点に戻ることである。原点とは、本書で述べてきた「思考」「感性」「勇気」である。日本人はパワーでは外国人には勝ち目はない。監督もコーチも選手も、もっと頭を使い、感性を磨き、果敢に挑戦していくことによってしか、日本の野球がさらなるレベルアップを遂げることは不可能である。また優れた人材が育つこともない。

 もしかしたらこれは野球界に限らず、国際的な競争力が低下し、行き詰まり感が強くなっている今の日本社会全体が直面している課題かもしれない。

 私たちは未来のために、原点からもう一度やり直す必要がある。

 2016年2月 野村克也