同じ漫☆画太郎原作の『地獄甲子園』や、続く『漫☆画太郎SHOW ババアゾーン(他)』で脚光を浴びた山口雄大監督が、松山ケンイチを主演に迎えて放つ映画『珍遊記』。「実写化不可能」の呼び声高い問題作にあえて挑み続ける奇才監督に、その胸中を訊いてみた──。

ⓒ漫☆画太郎/集英社・「珍遊記」製作委員会

──『地獄甲子園』の山口雄大が、ついに『珍遊記』を撮った。我々からすると、満を持してという感じがするわけですが。

山口 うーん。確かに「満を持して」ではあるんですけど、もともとはDLEの紙谷(零)プロデューサーから依頼があってスタートした企画なんで、僕から「やりたい」って言いだしたわけじゃないんです。もちろん、過去の作品も「世界でいちばん画太郎が好きだ」って想いでやってきたから、他の人にやられるのはそれはそれで嫌なんですけど、『珍遊記』は舞台が中国風だったり、主人公の山田太郎が3頭身だったり……と、画太郎原作のなかでもいちばん有名なうえに、とりわけハードルが高い作品でもある。だから、「どうすれば、おもしろくできるか」って部分でのプレッシャーに、ちょっとビビったってのはありましたね。

──本心では、もうちょっと寝かせておきたかったと。

山口 いや、それはないですよ。だからって、「2016年に『珍遊記』を撮る意味とは?」なんて訊かれたら、答えに困っちゃうんですどね(笑)。ただまぁ、こういうことは、何事もタイミング。実際、『魁!!クロマティ高校 THE☆MOVIE』(2005)が終わったぐらいのときに、勢いで「やっちゃえ」みたいな話が出たこともあるにはあるんですけど、結局は実現しませんでしたしね。

──ちなみに、そのときは「まだ時期尚早」という判断で?

山口 なんて言うか、ナチュラルハイになってる朝方の飲み屋の会話みたいなもんでね。冷静に考えたら、「これはやっぱ難しいぞ」となったわけです。でも、それを今回、紙谷さんは「ビジネスとしてもイケる」と踏んで僕に話を振ってくれた。だったら、そこには乗っかろうと、純粋に思ったんですね。『地獄甲子園』とかをやってた頃よりかは、技術的な面でも、お金をかけずにスゴい画を撮れる時代にはなってるんで、コストパフォーマンス的にも、いまならある程度はやれるだろうっていうのもありましたし。

──監督ご自身もそうですが、主演の松山ケンイチさんもまたマンガ実写化作品に定評のある俳優さんです。そこは狙ってキャスティングを?

山口 結果的にそうなっただけで、そこはまったく頭になかったですね。実は彼とは、『ユメ十夜』(2007)っていう、夏目漱石原作の短編オムニバスで一緒にやっていて、そのときの脚色が画太郎さんだったっていうのもあって、彼自身が画太郎ファンだっていうのは当時から知ってたんです。で、ビジュアルイメージではなく、内面から山田太郎を演じられる役者さんってところを考えたときに、彼ならイケるんじゃないかと思って、ダメ元で聞いてみたら快諾してくれて。まぁ、ぶっちゃけそのときは僕もまだ感覚だけで、方法論はまったくなかったから、お互いが不安を抱えたまま現場に入ることにはなったんですけどね。

──監督自身にも方法論がないなか、もっとも重要な山田太郎のキャラクターはどうやって形作られていったんでしょう?

山口 撮影に入る前の段階でも、松山くんから「山田太郎って、(がさつな感じなのにあんまり人に嫌われないところが)千原せいじさんじゃないですか」ってアイデアをもらったり、僕のほうからも「歩きながら通りすがりの人にちょっかいを出していく『ニッポン無責任時代』の植木等さんの雰囲気を入れてほしい」ってお願いしたり、固有のイメージをいろいろ出しあってはいたんです。ただ、僕自身が「これでいいんだ」っていう確信を持てたのは、撮影初日に酒場のシーンを撮りはじめてから。ずっと怒鳴っているだけの原作のセリフをそのまま起こしたような脚本が、怒ったり、引いたり、時々飽きたり……っていう松山くんの演技によって緩急がついて、スゴくしっくり来たんですね。

──確かに、観ている側としても、自分からキャラクターをモノにしてやろうという気概が伝わってきて、とても好感が持てました。

山口 まわりの反応を聞くかぎりでも、原作とは全然似ていないビジュアルで、しかも松山くんがやるような役でもないのに「ダメ」っていう声はあんまりない。なんで、「あれだけの特殊キャラをやっても叩かれない松山ケンイチってスゴいな」って、いまこうして宣伝で動くようになって、あらためて感じているところです。まぁ、さっきネットでTwitterを見てたら、「マツケンは大好きだけど、これだけは観たくない」って書いてあったんですけどね(笑)。そこはファンの人にはホント申し訳ないなと思いますよね。ファンならなおさら、全裸でハゲ頭のマツケンなんて観たくはないでしょうからね。

【1/2】

「珍遊記」
出演:松山ケンイチ 倉科カナ 溝端淳平 田山涼成 笹野高史 温水洋一 ピエール瀧
監督:山口雄大
原作:漫☆画太郎「珍遊記~太郎とゆかいな仲間たち~」(集英社刊)
脚本:おおかわら/松原 秀 企画・総合プロデューサー:紙谷 零
制作プロダクション:DLE
配給:東映
ⓒ漫☆画太郎/集英社・「珍遊記」製作委員会 公式HP⇒http://chinyuuki.com

2月27日(土)より新宿バルト9他

全国ロードショー

 
 

山口 雄大/映画監督。1971年東京都生まれ。
2002年『地獄甲子園』で劇場映画デビュー。
以降、実現が難しいとされる漫画原作の実写化
映画など、話題作を撮り続けている。