時代劇や映画で見られる戦国合戦。何万もの軍勢が戦う場面は一番の見せどころであるからこそ、華やかで激しいもの。今回はそんな戦国合戦の裏側を『図解 戦国の城がいちばんよくわかる本』の著者であり、現在放送中の大河ドラマ『真田丸』の戦国軍事考証を担当する西股総生さんに、場内での戦いかたを中心に解説していただきます。

「調略」はハイリスク・ハイリターン

 調略とは、相手方の誰かをそそのかして、寝返りをさそうこと。見返りとして金銭や領地、ポストなどを約束する。

「そちらの主君はあなたに冷たいようだが、うちの殿は、あなたの武勇をとても買っている」とか「あなたは主君から裏切り者ではないかと疑われている、
今のままではあなたの身が危うい」などといった話を持ちかけたりする。
 
 汚いやり方だが、有力武将を調略できれば敵の戦力に穴があくし、仮に失敗しても、相手方では他にも裏切り者がいるのではないかと、疑心暗鬼におちいって、家中の結束が乱れる。そんなわけで、戦国時代にはこの汚い手口が横行した。

 調略は、城攻めにも応用される。城攻めがはじまる前に、あらかじめ連絡を取っておいたり、包囲中の城内に矢文を送って寝返りをさそう。
「首尾よく城を落としたら、あなたが新しい城主・城将だ」
「倒した主君の領地を、そのまま差し上げる」くらいの約束はする。

 調略に応じた武将は、籠城中の城内であからさまに寝返り宣言をしても、たちまち粛清されてしまうから、しばらくは知らんぷりを決めこんでいる。そして、包囲軍の総攻撃がはじまったのを見はからって、寝返る。

 具体的には、城門を内側から開けて敵を引き入れた。城に火を放って守備兵を混乱におとしいれたりする。あるいは、主郭に入りこんで、城主や城将を討ち取ってしまうこともある。

 攻める側としては、力攻めをつづけて戦死者をたくさん出すのも物入りだから、調略で城を落とせるなら、相手に多少ほうびをはずんでも、その方が安上がりということになる。

 ただし、である。調略に乗って味方の城を落としても、相手が約束を守ってくれるとはかぎらない、というのが乱世のびしい現実でもあった。

 何かと理屈をつけて褒美や領地をケチるくらいなら、まだいい方だ。ひどい場合には、寝返った側の主君から、
「家臣が勝手にそんな話を持ちかけたようだが、自分は何も聞いていない」
とシラを切られ、裏切り者として首まで切られてしまう。調略を仕掛ける武将だって、成功して城を落とせれば自分の手柄になるから、もっともらしい見返り話を持ちかける。

 また、調略に乗った武将は、裏切り者という後ろ暗いイメージで見られるから、新しい家中でも居心地がよくない。それを他国に見すかされると、結局また調略に乗って寝返り……と、くり返しているうちに、没落してしまうこともある。

 敵の調略に乗るというのは、ハイリスク・ハイリターンな身の処し方だったようだ。