《連載書き下ろし再開予告》
森博嗣『道なき未知』は、月刊誌『CIRCUS』で2012年より連載第1回がスタート。第11回まで原稿は掲載されましたが、『CIRCUS』休刊に伴い連載は休止。執筆済の第12回の原稿は未公開。今回これまでの連載原稿を順次再録し、第13回からは著者が新たに書き下ろしいたします。
 

第7回

それぞれに違う道

 

表通りか抜け道か

 

 ときどき「私道につき通り抜けできません」という看板を見かける。あれは、物理的に通り抜けが不可能なのか、それとも通り抜けられるけれど、それをするなという意味なのか、どちらだろう。たぶん後者だ。前者ならば「行き止まり」と書けば良い。その方が効果がある。「してはいけない」と言うかわりに「できません」と言ったりするからややこしい。学校の先生も、「廊下を走るな」と言えばわかりやすいのに、「廊下は走らない」なんて言うから、文法的にいかがかと思う。

 抜け道をよく知っている人は、それで得をした気分になれるようだ。大通りが渋滞しているとき、脇道に逸れて、ちょっと先の信号に出てきたりする。数台前に割り込むだけのためにわざわざ回り道をする。

 そういう人間に限って、仕事や人生では思い切った決断ができない。みんなと同じように当たり障りのない大通りしか歩けなかったりするから不思議である。

 そんなことはべつにどちらでも良い。大切なのは、人それぞれが、自分の好きな道を歩けること。それができれば平和な社会といえる。みんなが自由になれれば、それこそユートピアというもの。

 そうはいっても、なかなか自由にならないのが現実。今のこの世の中がユートピアだなんて言っているのは、たぶん森博嗣くらいだろう。いや、僕もそこまで自信を持って言いきれない。もしかしたら、再来年くらいには、もう少しユートピアかもしれないしな、という程度か。

 

自分と他人は違う

 

 当たり前のことなのに、みんな充分に認識していない。自分は人と同じだと思いたがる。それは違う。似ているかもしれないけれど、絶対に同じではない。また、この違っていることこそが、人間の優れた点でもある。ほかの動物に比べると人間ほど幅広く変化に富んでいるものはいない。性格も違うし能力も違う。

 自分と同じ性質の者がいると嬉しくなる本能があるようだが、気をつけた方が良い。同じではない。また、同じだからといって親しくなれるわけでもない。むしろ違っている方が馬が合ったりする。

 同じ趣味の人とつき合いたい、と言う人がいるけれど、どうせなら違う人間の方が面白いし、チームとしても有利だ。ピッチャばかりでは野球はできない。ボーカルばかりではバンドは組めない。違う資質の者が集まってこそ協力し合える。ビジネスだったらなおさら、できるだけ考え方の違う人間と組んだ方が有利なのである。

 だから、自分と考え方が違う他者を大事にする心を持つべきだ。異なる意見を理解することが、人間の大きさというものだし、なにより、それが自分の利となる。反対意見に耳を傾け、ライバルのやり方にも学ぶ。感情的に好き嫌いで片づけるような問題では全然ない。

 反対意見を聞くと、かっとして怒りだす人がいるけれど、そういう感情的なところは、まだ獣の本能だといえる。「人間的」ではない。自分と違う意見でなければ、聞く意味がない。歓迎すべきことだろう。

 

奥様の話

 

 本誌に連載を始めたので、毎月この『CIRCUS』が家に届くようになった。主に、僕の奥様がこれを読んでいる。ちなみに、自分の妻なのにわざと敬称を使っているのである。これは、僕の勝手なポリシィなのであしからず。

 「君だけ浮いているね」というのが彼女の感想だった。もう少し意見をきくと、「君だけ真面目すぎる」と言われた。僕は、その逆かなと考えていたので、目から鱗が落ちた。反省して、以後軌道修正しよう。

 その奥様だが、小説も沢山読んでいる。僕に比べれば読書家だ。一方の僕は小説は読まない。同じ本を二人とも読んだ、といった例はまずない。本だけではない。まるで趣味が合わないから、お互いに話題にさえしないので、詳しくはわからない。

 意見や考え方がまったく合わないので、ほとんど別行動で、たまにしか顔を見ないのだけれど、ときどき会って話を聞くと、そんなふうに考える人がいるのか、と驚く。思いもしなかった視点、考えもしなかった感情というものに気づかされる。自分に欠けている部分を補うことができるから、実にありがたい。

 とにかく、人はそれぞれ、本当に違う考え方、感じ方をする。どれが正しいということはない。ただ、その人にとって正しそうなものが一時的にある、というだけのことだ。

 このように、自分の道というものは、人と同じではない。過去に成功した人と同じ道を歩こうとしても、そんなことはそもそも無理だし、ほとんど無意味なのである。

 

ずっと凍っていた庭の水道が4月中旬になってようやく出る
ようになった。水遊びが大好きな二人(二匹?)は大喜び。