「殿! もう3時よ、ランチにいらっしゃい!」

店の真正面が、ニューバーグというハンバーグ屋さん。ボクらみんな社食のように利用させてもらっていて、いつも裏メニューで歓待されていた。

「どうしたの、殿。朝から忙しそうだし、お客さんの入りも電話も凄いじゃない!」

「よく店んなか、見てくれてるなぁ(笑)。

そうなの。ほら、忌野清志郎握手会が決まったって言ったじゃない! その整理券を配布するのが、今日からなのよ」

「ご近所さんや、駅前交番とかにも挨拶はしておいたの?」

「うん、マスター。こないだ話したように、オービスさんや花屋さんに近所の個人宅までご挨拶に回ったんだ。そしたら、花屋さんからは2枚頼まれちゃってさ!

駅前交番では、本署に行ってくれって言うから杉並署まで行ったんだ。なのに、真剣に取り合ってくれないの!

恐らく、清志郎さんのネームバリューがわかってないんじゃないのかな?! 『届け出も必要ないし、ご近所に配慮してやってくれればいいから』だって」

「ふ~ん、いい加減なもんね。うちは殿のやることなら、全面的に応援しちゃうから!

それに、清志郎さんのファンならお行儀いいわよ」

「マスターもママさんも、ありがとう!

数日は、こんな混乱状態になると思うので、よろしくお願いしますね」

「店長! 食べ終わりました?」

「うん、どした。さわっちょ?!」

「吉祥寺のルーエの店長さんが、陣中見舞いだってシーバスリーガルを抱えてみえています。

日販さんと洋泉社の石川さんに双葉社さんもいらしてて、みなさんお話しながら待っていますよ!

りえさんは鳴りっ放しの電話に付きっきりで、内山さんは整理券のお客さんでてんてこ舞いです。店長、呼んで来いって言われました!」

「殿、情報が伝わるの早いわね」

「中央線エリアは、出版社の営業さん中心に情報が拡散してくからさ!」

 

アタマの中には、THE BEATLESの「A Hard Day's Night」が流れる。

Scene.23 本屋は今日も、てんてこ舞い!

 

「おっはー、遅刻してごめん。

昨日は、清志郎さんの握手会はホントにお疲れさま! 高円寺駅で、スポーツ新聞5紙を買って来たんだ。全部に、握手会の記事が出てるぜ! イェイ♪」

「あれ? スポーツ紙って、5紙も来ていましたっけ!」

「取材のテレビって、録画しよったと?!」

「ニュースの録画予約しよったら、バッチリ入っとったばい!

いきなり、店の外の喧噪状態を映しよるんよ。あれで、外の整理にあたった内山くんがいかに大変だったかわかったわ」

「オレの苦労が、多少なりともわかってもらえたらよかよ」

「わかっちょる。

昨日の打ち上げで聞いたけんが。総勢20名のスタッフで、清志郎さんをチラとも見れんかった方が何人もいて申し訳なく思ったけん」

「それでも、皆さんが充実感に溢れたお顔をされていたのは素敵だったと思います」

「そっか、さわっちょ。まさに、無償の愛だよな。商売付き合いだけじゃないぜ!」

突然、ナマで歌いだした清志郎さん! 握手だけで淡々と進むのかと思いきや、50人ごとのお客さんに向けてさすがのエンターテイナー

「清志郎さんが、帰り際に『また、やろうね』って店長に言うの、聞いちゃった!」

「うん。マネージャーさんがさ、『店長、完璧でしたね。また、なにかやりましょう』って! 鳥肌立っちゃったよ!」

「お二人で言ってくれるんだから、リップサービスじゃないわよね?!」

「りえ蔵さぁ~清志郎さん、ずっと眼を見てお話しててくれたからマジだと思うんだよな。

ボクら全員の誠意は、絶対に伝わると信じてるよ!」

「そうです! そう思いますよ、昨日はありがとうございました」

「ビックリしたぁ・・・・お花屋さん、こちらこそでっす」

「夫婦揃っての清志郎さんファンだったので、店の前で清志郎さんに逢えるなんて夢のようでした!

私たちの前に並んでいた、静岡から駆け付けたご一家も熱かったですね」

「そうなの、電話での予約だったから不安だったけど。絶対に行きますからって、熱意に負けたご一家だったんですよ」

「りえさん、なんか清志郎さんが本を買って行かれたって聞きましたよ」

「そうなんです!

私が仕入れた、洋書のイアン・デューリー自伝なの。嬉しかったわぁ!」