「わ! いらっしゃい、助監督。久しぶりですよね」

「店長。挨拶もできずに高円寺を離れちゃって、申し訳なかった。

よく雑誌に文庫センターが紹介されているから、頑張っているようなので訪ねてみようと思ってはいたんだよ」

「実相寺昭雄監督も、最近は映画もご無沙汰みたいで、どうしたのかなって思っていたんです」

「実相寺さん、最近は舞台の方なんだ。新藤兼人監督の方が、片付いたので時間ができたわけ。

高円寺は変わらないだろうって思っていたら、駅の北口出て目の前の本屋が無くなっているのには驚いたな」

「内山くんの友達がバイトしていたのに、雇用の喪失ですよ!」

「映画も厳しいけど、本屋さんもか?!

俺たちは映画で徹底的に突っ張っているけど、本屋はそうはいかないもんな。文庫センターを紹介した雑誌の文章の行間を読めたね。

あづま通りの場末にあった頃に、店長の苦労話を聞いていたから相変わらず苦労しているんだろうなって思えたよ」

前章で紹介し切れなかった、古屋兎丸さんからの年賀状。やはり100名近いお客さんを呼べる作家さんは、人気にふさわしい律義さも兼ね備えていた

「なにしろ、大学生への調査では4割強が読書時間0の時代ですから。

70年代までですか、小説や思想書の硬い本を読む、読もうとする、あるいは読んだふりをしたのは。

あの頃は、読書をする教養主義がまだ生きていたって思いますよ」

「岩井克人がな、『<売れなければならない>それが資本主義の論理です。<売れればよいというものではない>それが資本主義の倫理です』と、先日の朝日新聞『思潮21』で書いていたけど。

これを読んだ時に、店長に会いに行こうと思った。商売として成り立たせにゃが大前提だろうけど、不況で吹けば飛ぶような小さな店は『売りたい本』の心意気で頑張っているんだろうと余計に思ったのよ。

昔みたいにコーヒーも出ないから、帰るとするか」

「いまは、どこにお住まいなんですか?」

「闇へ憧れるところ所詮、死ぬまでの暇つぶし界隈さ」

 

アタマの中には、ウィルソン・ピケットの「In the Midnight Hour」が流れる。

Scene.28 夜更かし本屋はおもしろい!

 

「店長。英語ペラペラなんですねぇ・・・・」

ヲタク系外国人のお客さんが、中野から高円寺へと来始めた頃だった。秋葉原よりも早く、既に中野ブロードウェイはアニメの聖地として、世界に潜在するヲタクが出没していた。彼らはインターネットを駆使して、自分好みの蜜を求めて海を渡って来ていたのである。

そうしたニュースソースは、やはりテレビの深夜番組だった。最も文庫センター向きの番組と注視していたのが、『ウィークエンドライブ 週刊地球TV』by テレビ朝日。

これも見逃せない『タモリ倶楽部』を観た後の時間帯で足かけ8年にわたって放映されていたのが、この3月に残念にも終わってしまった。深夜のテレビはサブカルチャーの解放区だが、とりわけ『週刊地球TV』のクオリティは高く群を抜いていた。

MCが小西克哉から、蟹瀬誠一にバトンタッチしてしまったのも惜しかった。講談師の神田陽子にもハマったけど、やはり山田五郎さん! 

『奇妙な果実』のコーナーは、ディープ度がぶっ飛んでいた・・・・遺恨の声。なんで、五郎さんのイベントしなかったの!

ある時は、観ていて煙草を落としそうになった。文庫センターに来てくれている、中野貴雄監督が出てきた! しかも、日本の文化だといってパリで女相撲の興行をしていたではないか。ホントかよぉ~と、思いつつ。続いて、パリ市内で日本の漫画専門店を紹介していたから・・・・ま、いっか。

この番組に出ていたフレンチな連中が、すぐに店に現れた時にも驚いた! テレビやネットが連動して、間髪入れずって時代になったんだ。

確かに、21世紀。人為的な国境線は、野暮の極みだな!

「クロよ、まぁな。外国語なんざ、形よりソウルだぜ」

てなこと言って、煙に巻いたけど。クロちゃん、ごめんな・・・・おいちゃんは、中学英語程度よ。ほとんど、THE BEATLESの歌詞をフレーズで繋げて喋っただけなんだ。

14年目の、ごめんなさい!