一般的には企業の寿命はそれほど長くありません。100年も200年も続いている企業は、そうそうありません。世界的に見て、日本は100年以上続く企業が多いそうですが、それでも全企業数の数%しかありません。

 しかし、世の中には1000年も2000年も続いている組織があります。それは宗教団体です。宗教団体の場合、100年や200年なら、新興宗教と言われます。企業と違って、宗教団体は商品を提供してくれるわけでもないし、サービスを提供してくれるわけでもありません。むしろ、信者のほうからお布施や寄付という形で、おカネを提供されます。

 なぜ、信者の人たちは物質的な見返りがないのに、寄付をするのでしょうか。また、なぜ、そのような組織が1000年単位で存続できているのでしょうか。カリスマ性のある教祖に魅かれてでしょうか。

 もちろん、そうではありません。もし、そうであるなら、教祖が死んでしまえば教勢が衰え、下手をすると存続できないかもしれません。

 宗教団体が長期にわたって存続している理由は、教義という「考え方」を求心力にしているからなのです。正しい考え方には寿命がありません。信者にとって正しい教義があれば、宗教団体は何千年どころか未来永劫、存続することだって可能です。

 企業も、ビジョンや理念などの考え方を求心力にしたところが強いのです。 おカネを求心力にすると、「カネの切れ目が縁の切れ目」のような会社になってしまいます。組織が殺伐とし、そんな会社はお客さまや社会に好かれないので、長期的にはカネ儲けすらできなくなります。

「最も優れたリーダーはその存在すら意識されない」と、老子も言っています。それは、何もしないということではなく、考え方を浸透させ、仕組みをつくれば、各人が主体となって働くようになるということなのです。何よりも大事なのはリーダー自身ではなく、リーダーが正しい考え方を伝えることです。老子は、「尊敬されるリーダーはそれよりも劣り、恐れられるリーダーはさらに劣る」としています。

 ビジネス書の名著中の名著と称されるジム・C・コリンズ氏の『ビジョナリー・カンパニー』には、企業は宗教団体のような組織を目指すべきだと書かれています。正しい考え方を求心力にできるかどうか、ということなのです。

正しい考え方を求心力にできれば、組織は強くなる

 ダメな会社は社員を甘やかし懐柔しようとしたり、逆にノルマや管理を強化して尻を叩いたりして、何とか働かせようとします。

 しかし、正しい考え方を浸透させ、お客さまや一緒に働く仲間に喜んでもらう気持ちがあれば、そんなことをする必要はないのです。もし、お客さまや仲間の幸せに興味がない社員がいるのであれば、それは害悪です。そういう人は、採用の誤りとして対応するしかありません。

 正しい考え方を求心力にできれば組織は強くなります。その結果、収益力も格段に高まるのです。そして、社長は正しい考え方を伝える宣教師であるべきです。

 経営者の多くはカリスマ教祖になりたがります。しかし、教祖になってしまうと、自分の意見が絶対になります。そして、よしんばその考えが正しいとしても、教祖が死んだ途端に会社組織は終わってしまいます。あくまでも、正しい考え方を伝える宣教師になり、次の宣教師を育てていくのです。経営方針や戦略を伝える宣教師を社内に数多くつくり、経営者自身はその宣教師たちの親分になるぐらいの気持ちでいるべきです。

 稲盛和夫さんがあれだけ早くJALを再建できたのは、考え方を求心力にしたからです。もちろん、アメーバ経営の導入が奏功したこともありますが、アメーバ経営を導入した企業の全てが成功しているわけではありません。手法だけでなく、稲盛さんが自身の考え方を徹底して伝えたからこそ、JALの再建に漕ぎ着けることができたのです。