「読書で知的武装」するなんて実にくだらない!

「情報を仕入れるための読書」から、いい加減、卒業しよう!

ゲーテ、ニーチェ、アレント、小林秀雄、三島由紀夫……

偉人たちはどんな「本の読み方」をしていたのだろうか?

正しい「思考法」「価値判断」を身に付ける読書術とは?

哲学者・適菜収が初めて語る「大人の読書」のススメ。

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第3回

正解を暗記する人たち

 

 本なんて読まなくてもネットで十分だという人がいます。

 もちろんそれは間違いです。

 たしかにネットには大量の情報が溢れている。

 魅力的なものも多い。

 必要な情報をピンポイントで探し出すこともできる。

 だからダメなのです。

 情報により武装した結果、人間はバカになります。

 ネットではいちばん肝心な部分が見えてこない。

 それは答えにたどり着く過程、思考回路の部分です。

 ネットで答えを探すと答えしか見つかりません。

 その「答え」を暗記して居丈高になる人たちがいる。ネット右翼とかネット左翼と呼ばれているような人たちもそうですね。

 ネットにはゴミも多い。

 価値のある学説も根拠のない陰謀論も一緒に並べられてしまう。

 今では、そういう層を狙った本が書店に溢れている。

 ネトウヨのブロガーが書いたような本が平積みになり、彼らが説く「本当の歴史」「真実の歴史」を読者は暗記するわけです。

 最近、わかりやすい本が流行っています。

 世の中の森羅万象をわかりやすい言葉で説明してくれる人が持て囃は やされます。

 複雑なことを複雑なまま説明する本は売れず、とにかくわかりやすい解答を示してくれる本が売れる。

「とりかえしのつかない人」は自分の主張に近い本しか読みません。

 著者の主張を受け売りして、それを覚えて繰り返すうちに、自分の主張と思い込むようになる。それで、ネットなどで反対意見を述べる奴を一方的に罵倒して「論破した」と自画自賛し、生温かい世界に閉じこもるわけです。

 フランスの小説家ギュスターヴ・フローベール(一八二一~八〇年)も言うように、バカは結論を出したがる。

 彼らは結論にしか注目しない。

ギュスターヴ・フローベール (一八二一〜八〇年) フランスの小説家。文学上の写実主義 を確立。著書に『ボヴァリー夫人』『感 情教育』『サランボー』など。

 ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェ(一八四四~一九〇〇年)は、若者を確実に堕落させる方法があると言いました。

それは、違う思想をもつ者よりも同じ思想をもつ者を尊重するように指導することであると。

 教育もおかしくなってきています。

 学校の先生は言います。

「自分の立場を明確にしなさい」

「自分の主張をはっきり言いなさい」

「日本人は自分の意見を言えないから外国でバカにされる」

「自立した個人になりなさい」

 こんなことをやっているからバカが増える。

 きちんとものを考える人は、「自分の立場」「自分の主張」「自分の意見」「自立した個人」とは何かと疑いをもつ。

 わかりやすく説明できる問題は、もともとたいした問題ではありません。

 ドイツの哲学者カール・ヤスパース(一八八三~一九六九年)が言うように、そもそも答えが見つからないからこそ問題になっているわけです。

 哲学の本質は真理を所有することではなくて、真理を探求することなのであります。哲学とは途上にあることを意味します。哲学の問いはその答えよりもいっそう重要であり、またあらゆる答えは新しい問いとなるのであります。 (『哲学入門』)

カール・ヤスパース (一八八三〜一九六九年) ドイツの精神科医、哲学者。実存主義 哲学の代表的論者。著書に『哲学』な ど。

「とりかえしのつかない人」はどんな問題に対しても、すぐに答えを出せと言います。

 マークシートの試験問題ではあるまいし、世の中には原理的に答えが出ない問題など、山ほどある。

 人間にはわからないまま考え続けなければならない問題があります。

 しかし、社会全体が薄っぺらなものになるにつれ、「答えを出さない」「自分の足場を固めない」「考え続ける」という真面目な態度は軽視されていく。

 そして脊髄反射のように「対案を示せ!」と騒ぎ出す。

 要するに、恥知らずが増えた。

 自分が何ほどの存在かもわからないまま、はっきり意見を表明することに恥じらいを覚える。自分の意見を主張するのではなく、偉大な先人の意見に学ぶ。それが正常な人間です。

 しかし、今の世の中は、誰もが自分たちが信奉する正義を騒ぎ立て、罵倒を繰り返しています。サル山でサルが吠えている。

 

〈第5回「知的武装でバカになる」につづく〉

 

著者略歴

適菜 収(てきな・おさむ)

1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『日本を救うC層の研究』(講談社)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)など著書多数。