「読書で知的武装」するなんて実にくだらない!

「情報を仕入れるための読書」から、いい加減、卒業しよう!

ゲーテ、ニーチェ、アレント、小林秀雄、三島由紀夫……

偉人たちはどんな「本の読み方」をしていたのだろうか?

正しい「思考法」「価値判断」を身に付ける読書術とは?

哲学者・適菜収が初めて語る「大人の読書」のススメ。

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第5回

知的武装でバカになる

 

「確固とした正解なんて存在しない」などと、中学生みたいなことを言いたいのではありません。

 価値判断の基準をどこに見いだすかという話です。

 それは歴史に見いだすしかありません。

 その歴史も長くなければ意味がない。二日、三日ではダメです。二年、三年でも短い。

 二〇〇年なら近代で、二〇〇〇年ならキリスト教です。

 人類社会の歴史ということなら、少なくとも一万年はさかのぼる必要がある。

 それが逆に短くなると、最終的に脊髄反射になる。

 昆虫が液体を出すのと同じです。

 特定のワードに反応して、覚えた正解をピッと出す。

 こうした傾向を早めたのはインターネットかもしれません。

 ピッと押せばパッと答えが出てくる。

 なんでも、白と黒をはっきりつけたい。

 それで、二択三択の政治がはびこるようになった。

 簡単に答え合わせできるようなものが「知」と勘違いされているわけで、そんなものを集積すればバカになるだけです。

 今の時代は自己正当化のための情報を簡単に集めることができます。

 だから知的に武装するのは簡単です。

 問題は、彼らが「正義」を社会に押し付けるために運動を始めることです。

 社会運動を始めるのは左翼の特徴ですが、今では自称保守が社会運動をやっている。

 スペインの哲学者ホセ・オルテガ・イ・ガセット(一八八三~一九五五年)は言います。

 わたしは、これまでの数章において、今日の世界を支配している新しいタイプの人間の実相を明らかにしようと試みてきた。わたしはその人間を大衆人と呼び、その主な特徴は、彼は自分自身凡庸であることを自覚しつつ、凡庸たることの権利を主張し、自分より高い次元からの示唆に耳をかすことを拒否していることである点を指摘した。 (『大衆の反逆』)

ホセ・オルテガ・イ・ガゼット (一八八三〜一九五五年) スペインの哲学者。著書に『ドン・キ ホーテをめぐる思索』『大衆の反逆』 など。
 

 一方的に自分の正義を唱え、反論には聞く耳をもたない。

 凡庸であることに深く満足している。

 こうしたバカは右にも左にもいます。

 こういう人とは話がかみ合わない。

 彼らは、意見が対立する相手を打ち負かすことが議論だと勘違いしている。

 しかし、議論は勝ち負けではありません。

 議論は合意を目指し、利害を調整するために行われる。共通の了解、前提、目的を置かなければ、議論自体が成り立たない。

 要するに、子供の喧嘩を大人がやっているわけです。

 政治に「正解」があるなら、議論は必要なくなり、それをすばやく見つけ出せばいいという話になる。

 こうした愚かな発想が、フランス革命以降の近代の野蛮を生み出したのです。

 政治や歴史は本来面倒くさいものです。

 料理にたとえれば、素材の選択から、下ごしらえ、衛生管理まで手を抜いてはならないことがたくさんある。

 しかし、「面倒くさいから簡単にしろ」「わかりやすく説明しろ」「政治にはスピードが必要だ」と騒ぎ出す連中がいる。

 こういうのが増えていくことで、社会全体がとりかえしのつかないことになっていく。

 それでお子様ランチみたいな総理大臣が「改憲して一院制の導入を目指す」と言い出したり。

 わかりやすいものを求めるのは、根底に「物事はわかりやすく説明できるはずだ」という妄想がある。

 これが思考停止の土壌となっています。

 正気を取り戻すためには、先人の思考回路をもう一度たどり直すしかありません。

 

〈第6回「思考回路を身に付ける」につづく〉

 

著者略歴

適菜 収(てきな・おさむ)

1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『日本を救うC層の研究』(講談社)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)など著書多数。