世界史の“奇跡”と言われる「明治維新」とはいったい何だったのか? この疑問に経済的視点で答えた注目作がついに発売!(2016年4月10日全国書店等で販売開始!)
『経済で読み解く 明治維新』の著者・上念司先生に、「江戸時代の経済」と「明治維新」の関係性、そして「経済の掟」について語ってもらった。

Q1.「経済で読み解く」シリーズの2回目ですね。今回「明治維新」をテーマにされた動機をお聞かせください

上念:それは、担当編集者に頼まれたからです(笑)!
前回は、日本が「大東亜戦争」に至る道を書いたので、今度は「明治維新」に至る道を「経済」という“モノサシ”で書いてみたいなと思ったんです。
そもそも日本は、近代国家として大東亜戦争の前までは非常にうまくいっていました。特に、「第一次世界大戦」の終わりぐらいまでは……。
しかし、その後日本は「経済政策」を誤ったために、国民は困窮し、破れかぶれになり、「危ない思想」に追従していく―ということが起こった。
本書で扱っているのはその前史です。「調子の良かった明治政府(大東亜戦争以前の日本政府)はいかにして誕生したのか、を紐解いてみよう」といったところです。


Q2.本書では、教科書などではあまり評判のよくない、江戸時代の幕臣・荻原重秀や田沼意次などを高く評価されています。この二人と、戦後日本の歴史教育についてお話しください。

上念:まず、荻原重秀がなぜ悪く言われているかというと、重秀がまったく言いわけもしなかったからです。そして、何も書き残さずに亡くなった。
その重秀を、存命中はもちろん、亡くなった後も悪し様に批判していたのが新井白石です。白石が書いた『折たく柴の記』という本がありますが、それには重秀のことがボロクソに書かれています。そして、それを読んだ後世の人たちが白石の「悪いプロパガンダ」を真に受けて、重秀のことを悪く言っているんです。重秀のやった「貨幣改鋳は悪い政策だ」と。
ちなみに新井白石の経済理論というのは、今の民進党の枝野幸男氏以下のどうしようもない知識で、「貴穀賤金(きこくせんきん)」という非常に間違った考え方です。「経済が発展すること自体が良くないことだ」みたいな誤った考えに染まっていたんですね。

―なぜ、新井白石はそのような考えになってしまったのでしょうか?

上念:それは、新井白石が外国かぶれだったからかもしれません。白石は南宋の書籍をたくさん読んでいたようです。南宋というのは女真族の侵略で北宋が南遷してできた国で、実質的には金の属国です。しかし、実質的に属国であることを認めたくない南宋は、自分のほうが正当であるという屁理屈を考えます。チャイナの思想というのは、基本的にこういった「正統」と「異端」というのを二元論でやる。白石はその二元論で考えていただけなんです。
そして、あろうことか、白石はそれを経済に持ち込んでしまった。経済というのは変幻自在ですから、そんな単純なものではないんです。
白石はいっぱい漢籍を読んでいて、暗記の天才だったかもしれないけれど、どうも自分の頭で考えるのは苦手だったようです。そんな原理主義者の白石が、荻原重秀を批判していたんです。


―田沼意次についてはいかがでしょうか?

上念:田沼意次も、その後の幕政を担当した松平定信が「意次批判」をしていたので長い間悪く言われてきました。しかし、意次はすごく優秀な宰相で、江戸幕府再興の「最後のチャンスの人」だったんです。
荻原重秀と田沼意次の二人は、いずれも経済というものをよくわかっていた。「貨幣」というものの「役割」と経済に与える「効果」というものを非常によくわかっている二人は、正しい経済政策をやっていたんです。
ですから、江戸幕府がその方向で行っていれば、おそらく明治維新はなかったと思います。ところが、当時、世界でもトップクラスの経済力を持っていたのもかかわらず、江戸幕府はそれを生かし切れずに、滅んでしまいました。
このような経済視点の歴史は、歴史教科書にはまったく書かれていません。ある日突然、幕府が財政難に陥ったとか、元禄文化が花開いたと思ったら再び幕府が財政難に陥ったとか……。これでは、本当の歴史がわからない。そこを紐解きたかったというのも本書を書いた理由の一つですね。

 


Q3.本書を読むと、為政者のそのときどきの政策によって江戸市民が翻弄される様子がよくわかります。本書はある意味で「リーダー論」としても読めると思うのですが、国家のリーダーの資質として一番大事なものは何でしょうか?

上念:それはやはり、経済学の知見ですね。「経済の掟」をしっかり知っていることです。経済の掟は、絶対に逆らえません。「自律的運動命題」とも言うのですが、どんなに政治権力の強い人物がマニピュレーション(操作)をしようとしても、本人の意図したこととはまったく違う結果が出てしまう。
例えば、習近平という中国のリーダーは、政治的には非常に強い力を持っている。習近平に対して批判する論文がネットに掲載されると、それを疑われたジャーナリストが10人拘束される、というように、彼は絶大な力を持っています。
しかし、その習近平ですら上海総合指数と人民元の為替レートは操作できません。仮に、一時的に操作できたとしても永久にはできない。無理をするとそこで得たメリットの何倍ものデメリットが発生してしまう。これが経済なんです。自立して運動する複雑な歯車みたいになで、簡単には操作できないんですね。
やはり、経済に理解のある人がリーダーをやっておくべきだと思います。
そういう意味から言うと、徳川吉宗というのはちょっと微妙なんですよ。そんなに経済はわかっていなかったんですけど、カリスマ性があり、力もあった。だから吉宗がもう少し早く大岡忠相の進言を聞き入れていたら江戸幕府はなくならなかったかもしれないですね。

―現在の日本はいかがでしょうか?

上念:現在の日本ですと、経済がわかっているのは安倍晋三総理ですね。ただ、安倍総理以上にわかっている人がいないのがちょっと怖い。野党は総じてまったくわかっていない。全然ダメですね。かつて、みんなの党があったときの渡辺喜美氏は極めてよくわかっている人だったのですが、みんなの党はなくなってしまったので……。


Q4.本書では、為政者の奮闘とともに江戸市民のエネルギッシュな活動も活写されています。この江戸市民のDNAは現代にも引き継がれていると思いますか?

上念:百姓というのは、「農民に非ず(農民とは限らない)」というふうに本書では書いていますが、彼らのDNAは確実に現代に引き継がれていると思います。
日本はいい意味で、西洋と違ってキリスト教的な「精神の足枷」を持っていないので、思い切ったアイディアがいろいろ出せるんです。
日本は「ガラパゴスだ」などとよく言われますが、それはそれで独自に考えるアイディアがあるわけで、決してマイナスではありません。むしろそういったものを阻害するものがあること自体が問題です。
民間企業は非常に面白いことをやっている人がいっぱいいます。ところが、デフレはベンチャーにとってはマイナス。ベンチャーが起業できなくなってしまうとダメなんです。
デフレ時は、起業しても失敗する確率が上がります。逆に言うと、今の安倍政権のように、金融緩和をやっているときというのは、いろいろなアイディアが出てくると思います。
低迷している日本の家電メーカーは、「ソニー」「東芝」「(買収されましたが)シャープ」などで固定されていることが問題でしょう。新興の家電メーカーが出てこないというのがおかしいのです。今は「アイリスオーヤマ」が面白いことをやっていますけどね。
「サンヨー」も中国の「ハイアール」に買われてしまいましたが、ハイアールもけっこう面白いもの作っています。技術者は日本人だと思いますが、なぜトップの家電メーカーは彼らを活かしきれなかったのか。ランクは高いけれど、経営がヘタクソだったんですね、やっぱり―。
経済にも政治にも江戸時代のDNAは引き継がれています。いいところも悪いところも含めてね。むしろそこをそろそろ脱却してもいいのではないかとさえ私は思うのですが。

 

Q5.前著、本著ともに歴史を見直すに当たって「経済の掟」というモノサシを使われています。例えば、今の時代にこのモノサシを当てるとどういうことになるのでしょう?

上念:先ほども言ったように、安倍総理大臣は、ある程度その「経済の掟」を理解していると思います。ただ、その周りにいる人々がわかっていない。そして、マスコミは圧倒的にその「経済の掟」という〝モノサシ〟がわかっていない。嘆かわしい状況ですね。
これだけインターネットなどで情報が溢れているのに、テレビや新聞で垂れ流す情報は極めて間違った情報ばかりです。
一番わかりやすいのは貨幣の問題。金融政策の問題に関して、一部の利害関係者に引きずられた発言が多い。例えば財務省の意向を汲んで「増税が必要で、増税で財政が再建できる」なんてトンデモ理論を平気で言うわけです。
それから「金融緩和が限界だ」とも言います。金融緩和は無限にできますよ。だって刷ろうと思えば中央銀行は無限にお札を刷れるのですから。

―消費増税についてはいかがでしょうか?

上念:延期したほうがいいでしょう。できるならば、減税したほうがいい。
本書にも書きましたが、「税収」というのは簡単なかけ算(「名目GDP」×「税率」)で求めることができます。だから税率を上げたことによって名目GDPが減ってしまうと、税収は増えない。税率を下げることによって、もし名目GDPがもっと増えるんだったら、税収は増えてしまう。
今、日本の国民は消費したくてうずうずしているのですが、ちょっと先が見通せないから消費できない。また、増税されるのではないかと―。だから安心してお金を使えない。
もっと、国民が安心してお金を使えるような状況を作ることが先決です。そのためには増税は封印する、できれば減税する。ほぼ恒久措置みたいな形でそれをやる。
そして合わせて(一時的にですけど)財政支出を拡大させる。緊急経済対策ですね。アベノミクスによって政府資産がものすごく増えています。3年前と一昨年で27兆円ぐらい増えているんですね。増えた政府資産のうち、例えば3分の1の10兆円ぐらいを緊急経済対策としていろんなばらまきに使ったりすればいいんです。
ただし、やるのであればネットワーク効果の高い都市周辺のインフラ整備ですよね。圏央道に第二東名を繋げてしまうとか。そういうほうがいいと思います。
あとは、歴史的建造物の耐震補強をやるとかね。そういう良い使い方ですよね。それから国防費に使うとか、そういう形でばらまく。

 


Q6.「経済で読み解く」シリーズが今後どのように展開されていくのか楽しみです。次の構想はすでにお考えなのでしょうか?

上念:今後ですか……。海外編もいいかなと思っていたのですが、今、ちょっと思ったのは「経済で読み解く自衛隊」とかいいかもですね。戦争シリーズだと、「経済で読み解く尖閣諸島」とか、「経済で読み解く日米同盟」とか、そういうちょっとミクロなネタに行くのはありかなと。

 


Q7.最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

上念:一言で言うなら、この本を買ってください(笑)!
本書は、歴史教科書で疑問に思った点、ちょっと納得いかないなと思っていた点が、「なるほど、だからこういう書き方をしているのか」とスゥ〜とわかる本だと思います。
歴史教科書を多少擁護すると、今の歴史教科書は、嘘は書いていないんですただ、あまりにもつまみ食いをし過ぎている。何の脈絡もなく事実を列挙しているだけですから。
それを無理矢理解釈しようとするのでおかしなことになってくる。しかも教えている先生がちょっと左巻きなので、なおさら変な解釈が出てくるんですね。
最後に種明かしをすると、今回「明治維新」のことは実はあまり書いていないんです(笑)。でも、「なぜ明治維新が起こったのか」は、よくわかる。そこがポイントの本です。“経済で読み解く”を存分に味わっていただきたいですね。

<了>