果たして日本でもイスラム・テロが起きるのか? 軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏に編集部が直撃したインタビューの続きを聞こう。

日本人人質だった湯川遥菜さんと後藤健二さんを殺害したISのイギリス戦闘員「ジハディ・ジョン」ことムハンマド・エムワジ。2015年11月、米軍の空爆により死亡

Q4.すでに「第3次世界大戦」が始まっているという見方も多く出ています。どう思いますか?

黒井「テロはしょせん犯罪のレベルなので、それで世界秩序が変わるということはありません。シリアとイラクのISも軍事的には劣勢で、これ以上は支配領域を広げるということもないでしょう。したがって、ISがひとつの極になって既存の世界秩序と雌雄を決するといった意味での第3次世界大戦にはなりません。

ただし、今後、リビアやイエメン、ナイジェリアなどのように、ISに便乗したイスラム過激派勢力が台頭し、イスラム圏のさらに多くのエリアでミニISのようなものが林立する可能性はあります。つまり、中央政府の統治が弱いエリアで、半ば内戦のような状況になることが予想されるわけです。

しかしその場合、もはや国際社会が介入して安定化するという仕組みが機能しなくなっています。従来は米軍を中心に西側諸国を主力とする有志連合が介入するという紛争解決方式があったのですが、いまやアメリカは世界の警察の役割を放棄しています。また、欧米主導で国際社会が対応しようとしても、ロシアが反対してその動きを潰すということもすでにパターン化してきています。

したがって、今後は世界の各地で地域内の紛争が頻発し、それが放置されて紛争が長期化し、そこを拠点にテロが広がるといった事態が恒常化することが予想されます。世界大戦といった熱い戦争ではないですが、世界の安全・安定に対する脅威はずっと続くということですね」

Q5.日本でもテロが起きるのでしょうか?

黒井「ISが日本をテロ標的に名指ししていることから、日本国内がテロの標的になる危険性が注目されていますが、それはイスラム・テロの内情というか、雰囲気をよくご存知ない方の見方です。

イスラム過激派のテロリストは、ジハードをやっているという意識でやっています。そんな彼らは、ジハードで命を捧げるわけですから、より彼らにとって意義の高いジハード、仲間内でそれなりに評価されるジハードをやりたいのです。

それはすなわちアメリカに対する攻撃であり、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなど、彼らが言う『十字軍』に対する攻撃なわけです。あるいは今ならISと交戦状態にあるロシア、トルコ、あるいは天敵であるシーア派、さらには彼らが背教者とみなす中東各国ですね。

つまり、日本など彼らの眼中にありません。実際、イスラム過激派系のSNSなどで日本が話題になることなどありません。関心の枠外なのです。

もちろんISに共鳴するテロ志願者が日本にいたら、日本でテロを起こす可能性はあります。これは世界各地のIS支持者のテロの特徴なのですが、自分たちの行動圏内でテロを行うということはよくあります。土地鑑があるため、やりやすいからです。

しかし、日本には大規模なイスラム教徒コミュニティがなく、日本にイスラム過激派がいる形跡はまったくありません。実は警察はかなり以前から日本国内のイスラム・コミュニティを監視していて、そうした過激派分子に目を光らせているのですが、いないものはいないのです。

これまでISに入りたい日本人の若者の事件がありましたが、テロ細胞というにはかなりかけ離れた話です。今後、社会不適格者のいわゆる通り魔的な犯罪者が、厨二病的にISへのシンパシーを口実にしたりする可能性はありますが、政治的なテロとは違います。そうした異常者のテロは世界的にも多く、それは日本でも充分にあり得ますが、いわゆるイスラム・テロとは異なるものです。

このように、イスラム・テロが日本国内に波及する可能性はきわめて小さいものです。ただし、サミットやオリンピックなどを契機に、日本で各国首脳、あるいは日本国内の欧米主要国の大使館、米軍基地、あるいは在日欧米人に対するテロをする動機はあります。もしも可能であればやりたいという気はあるでしょう。

ただし、その場合、テロリストは海外から日本に潜入して行うことになりますが、身を隠すイスラム・コミュニティもなく、支援人脈もなく、武器調達も難しく、言葉もわからず、風貌も目立ち、土地鑑もない極東の国に潜入し、密かにテロの準備をするというのは、気の遠くなる作業になります。

そんな手間のかかる国でテロを行うより、もっと簡単にテロが行える国がたくさんあるわけですから、わざわざ日本でテロを行う意味がほとんどありません。

ISのシンパは異教徒を殺害することを躊躇しませんから、仮に外国で彼らの目の前に日本人がいたら狙われる可能性はありますが、日本国内で彼らがテロを行う可能性は、もちろん様々なテロリストがいますからゼロということではありませんが、きわめて小さいことに変わりはありません。

それよりも、日本の警備当局としては、海外で日本人がテロに巻き込まれることを想定し、事前の対策を練るべきです。テロは大流行期であり、それは必ず今後も起きることだからです」                  (終)