「読書で知的武装」するなんて実にくだらない!

「情報を仕入れるための読書」から、いい加減、卒業しよう!

ゲーテ、ニーチェ、アレント、小林秀雄、三島由紀夫……

偉人たちはどんな「本の読み方」をしていたのだろうか?

正しい「思考法」「価値判断」を身に付ける読書術とは?

哲学者・適菜収が初めて語る「大人の読書」のススメ。

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第7回

自分の意見などいらない

 

 本を読むときにいちばん大事なのは著者の思考回路を追体験するということでした。

 単に情報だけを集めていると、とりかえしがつかないことになる。

 ここからは、真っ当なものにどのように接近していくかというテーマを扱います。

 では、偉大なものはどこにあるのか?

 もちろん本の中です。

 偉大な人間ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(一七四九~一八三二年)でさえ、常に偉大なものを近くに置いていた。

 ゲーテは言います。

 私は、たえずすぐれたものに触れるために、毎年、モリエールの作品を二、三篇読みつづけている。私が彼に魅せられるのは、たんにその申し分のない技巧だけではない。とりわけ、その詩人の愛すべき天分、高い教養を身につけた精神だ。彼は作法にかなったものに対する優美な礼儀を心得ている。
(エッカーマン『ゲーテとの対話』)

 モリエール(一六二二~七三年)は、フランスの俳優、劇作家です。ピエール・コルネイユ(一六〇六~八四年)、ジャン・バティスト・ラシーヌ(一六三九~九九年)と並び称される古典主義の三大作家の一人ですね。

 『人間嫌い』『女房学校』『タルチュフ』『守銭奴』『病は気から』『ドン・ジュアン』といったフランス古典喜劇を完成させた。

 偉大なものに常に立ち戻る。

 偉大なものに敬意を示す。

 そういう姿勢があれば大抵のことはなんとかなります。

 偉大なものを尊重する姿勢と卑小なものを避ける姿勢があれば、それでいいのです。

 ゲーテは「私たちのような小粒の人間はこういうものの偉大さを心の中にしまっておくことなどできない。だから、ときどきそこへ戻って、その印象を心によみがえらせることが大事なのだ」(同前)と言います。

 時間に磨かれた本は、黙って読めばいいのです。

 自分の意見などいりません。

 ゲーテは登場人物にこう語らせる。

 人間は低俗なものに馴染(なじ)みやすく、美しいものや完全なものにたいする精神や感覚の感受性は容易ににぶるものであるから、それを感じとる能力を、あらゆる手段をつくして維持しなければならない。というのは、誰もこのような楽しみを完全になしですますことはできないし、多くの人間が、新しくさえあれば、卑俗なもの、無趣味なものに満足するのは、いいものを味わうことに慣れていないからにすぎない。毎日、少なくとも一つは小さな歌を聞き、いい詩を読み、すぐれた絵を見るようにし、できれば、理にかなった言葉をいくつか口にするようにしなければならない。
(『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』)
 
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ ゲーテ (一七四九〜一八三二年) ドイツの詩人、劇作家、小説家、自然 科学者、政治家、法律家。著書に『ヴ ィルヘルム・マイスターの修業時 代』『ファウスト』など。
 

 

〈第8回「三島由紀夫の読書論」につづく〉

 

著者略歴

適菜 収(てきな・おさむ)

1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『日本を救うC層の研究』(講談社)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)など著書多数。