《待望の連載書き下ろし再開スタート!》
森博嗣『道なき未知』は、月刊誌『CIRCUS』で2012年より連載第1回がスタート。第11回まで原稿は掲載されましたが、『CIRCUS』休刊に伴い連載は休止。執筆済の第12回の原稿は未公開でしたがこのBEST TIMESで初公開。今回の第13回からは著者が隔週で新たに書き下ろしいたします!

 

第13回 

人生の道草

 

道草をしました

 

 前回の原稿(第十二回)を書いたのは、四年まえの夏だった。次は「道草」について書こうと決めていて、そろそろ執筆をと思った頃に、雑誌が休刊になるという知らせが届いた。「書かなくて良かったぁ」とほっとしたことをよく覚えている。

 それをまた、こうして続けて書くことになった。こういった仕事の例は、僕の作家人生の中でも他にない。長い道草をしたものである。

 この四年の間に、また引越をした。引越が大好きなのだ。旅行はどちらかというと嫌いかも。つまり、遠くへ行きたいばかりで帰りたくない、という人間みたいだ。

 相変わらず田舎に住んでいる。そして、都会へはほとんど出ていかない。森林に自分の小さな鉄道を敷いて、それに乗って遊んでいるけれど、普通の鉄道には乗らない。バスにも乗らない。自分の車を運転するだけ。今はカーナビが普及して、どこへでも行ける。車で行けないところへは飛行機で行ける。空にも道がある。世界中が道だらけになった。

 四年間で何が変わったかな、と考えたのだが、世間では大きな変化はないように思う。スマホが流行りすぎたくらいではないだろうか。

 自分のことだと、ジェットエンジンで推進する機関車を作ったり、ジャイロモノレールの大きいものを作ったり、あるいは、ドローンを飛ばして空撮したりしたくらいだろうか。奥様が一度喘息の発作で救急車で運ばれたこと以外では、大きな不幸もない。

 作家としても相変わらずだ。TVの連ドラになったり、アニメになったりして、印税は増えた。電子書籍も売れる。ラッキィなことである。

 

道草をした方が良い

 

 目的に向って進むとき、脇道に逸れたり、別の対象に気を取られたりするのは、時間や労力の無駄になるから、できるだけ避けた方が良い。しかし、ときどき、そういった道草から新しい情報がもたらされ、あるときは、本筋を飛躍的に効率化するアイデアを思いつくことだってある。だから、一概に「道草するな」とも言えない。

 大事なことは、「自分は今道草をしている」という自覚だろう。その自覚の下、多少なりとも後ろめたさを持っていれば、大きな無駄にはならない。そうまでして道草をするのは、なんらかのメリットがあると感じているからであって、その予感を信じた方がよろしいのではないか。

 予感というのは、「なにか~な気がする」みたいなものだが、そう考える理由が自分の中に存在する。たとえば、僕の場合、予感はほぼすべて実現している。ようするに、「~な気がする」と思ったときには、それなりの手応えを自分で感じている証拠ともいえるのだ。

 新しいことを始めたときには、「なにか自分が楽しめるものが、ここにありそうな気がする」という気持ちになる。そして、だいたいそのとおりになるので、ますます楽しくなる。一方、人からすすめられたとか、みんながやっているからとか、そういった動機で始めたものでは、がっかりするばかりだ。期待していたのに、どうも違う、ということになりがちである。「他者からのおすすめ」は、自分の「予感」よりもだいぶ当りの確率が低い、ということは確かなように観察できる。

 ネット社会になって、みんながスマホを持って歩くようになり、大勢が他者の動向を気にしている。こうした中で、自身の「予感」がいかに衰えているか、を考えてもらいたい。動物が野性を持っているように、人間は自分の興味に向う鋭い好奇心を本来持っているはず。「こちらの道へ進んだ方が、なんか楽しそうな気がする」という勘を、自分の感性として磨かなければならない。それでこそ、自分の「道」であり、「道草」も、そういう意味では、「道の一部」と見なせるだろう。

 

周囲を見ない時間

 

 道草は楽しい。ついつい時間を忘れて、気がつくと暗くなっていたりする。それは、周囲を見ない熱中の時間だったからだ。それだけ没頭していた。楽しさとはこういうもの。

 「自分らしさ」を見つけたいとか、「自分は何者なのか」とか、そういった自分探しに憧れている人が多いけれど、きっと、周囲の他者を見すぎていて、周りと自分を比べてばかりいるのではないか。

 そうではなく、自分を見つけたかったら、なんでも良いから、自分以外のものに没頭することである。天体を観測したり、絵を描いたり、そんな道草をすれば良い。ようするに、自分を見つけるには、「我を忘れる」ことが大事なのだ。我を忘れた時間のあと、ほっとするひとときに、なんとなく新しい自分になっていることを発見するだろう。

我が庭園鉄道(欠伸軽便)の30号機、ジェットエンジン機関車。詳細および動画はネットで検索を。