「読書で知的武装」するなんて実にくだらない!

「情報を仕入れるための読書」から、いい加減、卒業しよう!

ゲーテ、ニーチェ、アレント、小林秀雄、三島由紀夫……

偉人たちはどんな「本の読み方」をしていたのだろうか?

正しい「思考法」「価値判断」を身に付ける読書術とは?

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第11回

道はすでに示されている

 

 濫読期、つまり「子供の読書」を卒業したら、ひたすら「よいもの」に触れることが大切です。

 小林秀雄は言います。

 質屋の主人が小僧の鑑賞眼教育に、先ず一流品ばかりを毎日見せることから始めるのを法(のり)とする、ということを何かで読んだが、いいものばかり見慣れていると悪いものがすぐ見える、この逆は困難だ。惟(おも)うに私達の眼の天性である。この天性を文学鑑賞上にも出来るだけ利用しないのは愚だと考える。こうして育まれる直感的な尺度こそが後年一番ものをいう。
(「作家志願者への助言」)

 普段からきちんとした料理を食べていれば、ダメな料理が出てきたときに、一瞬でどこがダメなのか指摘することができる。

 逆は成り立ちません。

 まずいものをいくら大量に摂取したところで、価値あるものを具体的に評価することは不可能です。

小林秀雄

 三島由紀夫も同じことを言っています。

 料理の味を知るには、よい料理をたくさん食べることが、まづ必要であると言われております。また、お酒の味を知るには最上の酒を飲むこと。絵に対してよい目利きになるためには、最上の絵を見ること。これは、およそ趣味というものの通則であって、感覚はわかってもわからなくても、最上のものによってまづ研ぎ澄まされれば、悪いものに対する判断力を得るようになるものらしい。 (『文章読本』)
三島由紀夫

 きちんとしたものに触れ続けることによってのみ、人間は価値判断能力を身につけることができます。サミットというスーパーマーケットで買いものをしていたら、モーツァルトの「ハフナー」がかかったのですが、これがどうしようもない。スーパーマーケット用に編曲したものかとも思いましたが、一応オーケストラが演奏していた。ピンの演奏が頭に入っていれば、ゴミは一瞬でわかります。

 ゲーテは道はすでに示されていると言います。

 生れが同時代、仕事が同業、といった身近な人から学ぶ必要はない。何世紀も不変の価値、不変の名声を保ってきた作品を持つ過去の偉大な人物にこそ学ぶことだ。こんなことをいわなくても、現にすぐれた天分に恵まれた人なら、心の中でその必要を感じるだろうし、逆に偉大な先人と交わりたいという欲求こそ、高度な素質のある証拠なのだ。 (『ゲーテとの対話』)

 

 しかし、後から生れてくる人は、それだけ要求されるところも多いのだから、またしても迷ったり探したりすべきではない。老人の忠告を役立てて、まっしぐらによい道を進んでいくべきだ。いつかは目標に通じる歩みを一歩一歩と運んでいくのでは足りない。その一歩一歩が目標なのだし、一歩そのものが価値あるものでなければならないよ。 (同前)

 つまらないところでくだらない努力をするのは時間のムダです。

 すでに道は示されているのだから、それをたどればいいのです。

 それにいつ気づくかということですね。

 

〈第12回「世界で一番すごい本」につづく〉

 

著者略歴

適菜 収(てきな・おさむ)

1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『日本を救うC層の研究』(講談社)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)など著書多数。