「読書で知的武装」するなんて実にくだらない!

「情報を仕入れるための読書」から、いい加減、卒業しよう!

ゲーテ、ニーチェ、アレント、小林秀雄、三島由紀夫……

偉人たちはどんな「本の読み方」をしていたのだろうか?

正しい「思考法」「価値判断」を身に付ける読書術とは?

哲学者・適菜収が初めて語る「大人の読書」のススメ。

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第14回

なぜ人間はくだらないものを読むのか

 

 最上の本と最低の本の値段はほとんど変わりません。

 そこが本のすごさです。

 たとえば、一流のレストランとマクドナルドの値段は違います。

 一流のレストランは当然高いし、マクドナルドは当然安い。

 もし一流のレストランとマクドナルドが横に並んでいて、同じ値段だったとしたら、どちらに入るか?

 普通だったら一流のレストランに入りますよね。

 私ならそうします。

 しかし、そうではない人もいる。

 食べ慣れているとか、これで十分とか、時間がかからないとか、柔らかいとか、堅苦しくないとか、セットでコーラがついてくるといった理由でマクドナルドに入るのです。

 バカは同じ金額を払って、最低のものを選ぶ。

 それと同じことが発生しているのが本です。

 磨きぬかれた最上の本とくだらない最低の本が同じ値段で売られていても、読み慣れているとか、自分にはこれで十分とか、読むのに時間がかからないとか、文章が柔らかいとか、堅苦しくないといった理由で後者に飛びつく。

 人生をムダにしているとしか思えません。

 ショウペンハウエルは言います。

 一般読者の愚かさはまったく話にならぬほどである。あらゆる時代、あらゆる国々には、それぞれ比類なき高貴な天才がいる。ところが彼ら読者は、この天才のものをさしおいて、毎日のように出版される凡俗の駄書、毎年はえのように無数に増えてくる駄書を読もうとする。その理由はただ、それが新しく印刷され、インクの跡もなまなましいということに尽きるのである。このような駄書はいずれ二、三年たてば、打ち捨てられ、嘲罵(ちょうば)される。そしてその後は永久にみじめな姿をさらして、いたずらに過ぎし世の戯言(たわごと)を嘲笑する際の、材料として引かれるにすぎない。 (『読書について』)
アルトゥール・ショウペンハウエル (1788〜1860年) ドイツの哲学者。著書に『意志と表象としての世界』など。

 中華料理でも日本料理でもフランス料理でも鮨屋でもそば屋でも、本当においしい店は少ない。一方、これは論外というまずい店はたくさんある。

 知り合いの料理人から聞いた話によると、ある程度料理の基本が共有されている現在、極端にまずいものなど作りようがないと。

 要するに考え方が逆なんです。

 この店は「まずいのになんでやっていけるのか?」ではなくて、「まずいからやっていける」のです。最初から意図的に家畜の餌が作られている。これはくだらない本が意図的に作られるのと同じ仕組みですね。

 逆に言えば、最上のものが数百円で手に入るのです。

 ゲーテの『ファウスト』は、世界最高の頭脳が集まり一〇〇億円かけようが、一〇〇〇億円かけようが、二度と生み出すことはできない。

『ファウスト』 二四歳で書き始め、死の前年、八二 歳で書き終えた、ゲーテの全生涯を かけた大作。絶望した大学者ファウ ストの悲劇とその中から生まれる 人類愛を描いた。

 クーポンを使って節約とかコスパがどうこうとかくだらないことを言っている暇があるなら、古典を読めば一発で元をとれます。

 ゲーテは言います。

 人はあまりにもつまらぬものを読みすぎているよ。(中略)時間を浪費するだけで、何も得るところがない。そもそも人は、いつも驚嘆するものだけを読むべきだ。(『ゲーテとの対話』)

 

〈第15回「人間はいつからとりかえしがつかなくなるのか」につづく〉

 

著者略歴

適菜 収(てきな・おさむ)

1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『日本を救うC層の研究』(講談社)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)など著書多数。