安保法制で大揺れに揺れた2015年度通常国会。安倍首相がしばしば口にした「地球儀を俯瞰する外交」が、まさに地政学のことだと分かっていた人がどれだけいるだろうか?

 

2014年の外交青書で発表された安倍外交の二つの柱が、「積極的平和主義」と「地球儀を俯瞰する外交」である。この「地球儀を俯瞰する外交」というのは、地政学的な観点から、それこそ地球儀を俯瞰して外交戦略を立てましょう、ということだ。

 

では、この「地政学」とは何なのか? 『平凡社大百科事典』によると、

「地理的諸条件を基軸におき、一国の政治的発展や膨張を合理化する国家戦略論」

と定義されている。

 

『日本人が知らない地政学が教えるこの国の針路』(KKベストセラーズ)の著者の、元公安調査庁調査第2部長の菅沼光弘氏は、次のように説明する。

 

「地政学という学問は、戦後のわが国において、禁断の学問と言ってもよい扱いをうけてきた学問です。ですから、ほとんどの日本人が、そのなんたるかを知りません。

それは、地政学がナチスドイツの世界制覇の野望の理論的支柱であったと見なされたという過去の事実から来ています。そのために、敗戦国(枢軸国)の戦後の学問体系からは排除されてしまったからです。

しかし、あの戦争に勝利した戦勝国(連合国)の国々も、この地政学の理論で第2次世界大戦を戦っていたことを忘れるわけにはいきません。そして、いま、国内が、安保法制の論議で大揺れに揺れている2015年現在も、世界はこの地政学の論理で動いているのです。

戦争の悪であることは言を俟ちません。日本国憲法は戦争を放棄しました。しかし、戦争を、あるいは武力を含めた覇権争いを、不可避なものとしていまも世界の大国が動いているのだとしたら、そして、その理論的支柱がこの地政学にあるとするならば――実際、その通りなのですが――、それを知らないということは、一国として、この世界に生き残る道を知らないということになるのです。」

 

菅沼氏は、地政学が現実の戦略構想に実現している例として、中国の「一帯一路」政策を挙げている。「一帯一路」とは、陸のシルクロード経済ベルトと、二十一世紀の海のシルクロード、この二つのシルクロードのことで、「一帯一路」政策とは、これを構築しようとする中国の戦略構想のことだ。

 

「これらを構築しようとする中国の考え方は、まさに地政学的な戦略構想です。それを実現するために、AIIB(アジアインフラ投資銀行:Asian Infrastructure Investment Bank)をつくり、シルクロード基金とか、ブリックス銀行とか、上海機構などと併せて、資金を供給しようとしています。アジアインフラ投資銀行(AIIB)というのは、最初に地政学的な戦略構想があって、それを実現するための仕組みとしてつくり上げたわけですから、最初から、うまくいく、いかないということではなくて、採算や実現可能性を無視した形で、進められることになるのです。

だから、日本で『透明性がない』とか『採算が合うのか』ということが議論されていますが、中国の頭の中では、採算無視でもやっていく、あるいは、やろうとしているのです。」

中国の「一帯一路」政策はまさに地政学 (2015年4月、中国中央電視台CCTVニュースから)

世界はいまだに地政学にもとづいて動いている。菅沼氏が言う通り、国際政治のリアリズムに則って日本の針路を考える場合、地政学のなんたるかを知らないということは、議論の前提になる基本的知識さえ備わっていないということになるのだろう。いま地政学が注目の的になっているのは、そういう背景があるからだ。           (終)