「読書で知的武装」するなんて実にくだらない!

「情報を仕入れるための読書」から、いい加減、卒業しよう!

ゲーテ、ニーチェ、アレント、小林秀雄、三島由紀夫……

偉人たちはどんな「本の読み方」をしていたのだろうか?

正しい「思考法」「価値判断」を身に付ける読書術とは?

哲学者・適菜収が初めて語る「大人の読書」のススメ。

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第18回

ベストセラーは時間を置いてから読む

 

 大衆は行列に並びます。

 その理由は行列ができているからです。

 オルテガは言います。

 大衆とは、善い意味でも悪い意味でも、自分自身に特殊な価値を認めようとはせず、自分は「すべての人」と同じであると感じ、そのことに苦痛を覚えるどころか、他の人々と同一であると感ずることに喜びを見出しているすべての人のことである。(『大衆の反逆』)
ホセ・オルテガ・イ・ガゼット (一八八三~一九五五年) スペインの哲学者。著書に『ドン・キ ホーテをめぐる思索』『大衆の反逆』 など。

 周囲の人間の価値判断に従うのが大衆です。

 行列は価値判断を他人に委ねる行為です。

 私が好きな料理屋はネットのグルメサイトではたいてい点が低い。そしてこれはダメだろうと思う店はたいてい点が高い。

 この仕組みについて考えたことがあるのですが、世の中の大多数が評価する店は当然レビューサイトで点が高くなる。これは世の中の大多数の評価が真っ当なときには参考になります。

 しかし、大多数の評価が真っ当だったことなど歴史上あったのか?

 今の世の中が狂っているとしたら、そこで成立している価値判断に自分を合わせる必要はさらさらない。

 先日、某ラーメン屋がミシュランで一つ星をとりました。それで長蛇の行列ができた。

 以前、用事があって近くに行ったとき、偶然入ったことがある店です。

 普通のラーメン屋です。

 そこの店主がインタビューを受けて「三つ星を目指したい」と語っていた。

 ジャンクフードが三つ星をとったら、価値の崩壊です。まあ一つ星でも価値の崩壊ですが。

 もちろん、「ミシュランの権威など信用しない」という言い方はありますが、それは別として、権威とされてきたレビュー誌でさえそういうことになっている。

 価値基準が崩壊すれば、世相に迎合するものが持て囃(はや)されるようになる。

 ベストセラーとは「隣の人が読んでいる本」です。

 ふだん本を読まない人が買うからベストセラーになるのです。本読みが見向きもしない

ような本だからよく売れるのです。行列ができるラーメン屋に「行列ができているから」という理由で並ぶような奴が買っているわけですね。

 余談ですが、つけ麺屋の主人は腕を組むじゃないですか。あれはなにか隠し事があるからですよ。

 ベストセラーは全部ダメだと言いたいのではありません。

 なかにはいいものもあります。

 しかし、飛びつくのは愚かです。一〇年でも二〇年でも半世紀でも待ってから読んでも遅くはありません。ある程度、評価が定まってから読む。福澤諭吉の『学問のすゝめ』もゲーテの『若きウェルテルの悩み』もベストセラーだったわけですから。

福澤諭吉 (一八三五~一九〇一年) 蘭学者、啓蒙思想家、教育者。慶應義 塾を創設。著書に『学問のすゝめ』 『福翁自伝』など。

〈第18回「思考停止社会」につづく〉

 

著者略歴

適菜 収(てきな・おさむ)

1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『日本を救うC層の研究』(講談社)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)など著書多数。