星野リゾート代表取締役星野佳路氏

運営特化戦略の先見性

 星野リゾートを特徴付ける経営方針に「運営特化」があります。土地や建物を所有せず、リゾートの運営に集中するというものです。海外のホテルチェーンでは当たり前に行われていますが、日本で実施しているところはまだそれほど多くありません。特に旅館では、企業よりも家業であるという意識が強く、家業である以上、先祖から受け継いだ土地や建物を他人に譲ること自体ナンセンスという風潮があります。

 日本がバブル経済にあった1980年代後半に、星野リゾートの代表、星野佳路氏はアメリカでホテル経営学を学んでいます。「日本もいずれ、所有と運営を分離するリゾート経営が求められる」と当時から予測していたそうです。星野リゾートの社長に就任した1991年に「リゾート運営の達人になる」というビジョンを掲げ、2001年のリゾナーレ八ヶ岳の再生を皮切りに、旅館やリゾート運営が同社で本格化します。それから15年で、国内外35のリゾートを運営する企業に成長。観光立国・日本を牽引するリゾート運営会社として、国内外から注目を集めています。

「運営に特化する戦略は、当時の自分達が考えていた以上に、競合他社がまねしにくいものです。星野リゾートの強みとなったこの特徴を、どう維持し、どう伸ばしていくか。できれば運営会社として唯一無二のポジションを確立していきたい。運営する軒数や規模はすべて結果だと思っています」(星野氏)

 ホテル特化型の不動産投資信託「星野リゾート・リート投資法人」が本格起動した前後(2013年ごろ)から、こういった発言が星野氏より度々聞かれるようになりました。リートを立ち上げたことで、自社ブランドの「星のや」「界」「リゾナーレ」などの施設の所有と運営を完全に分離し、運営に集中することで競争優位をとるという戦略が強化されたのです。「実家である『星のや軽井沢』の不動産も手放したが何ら問題はない」というメディア発言は話題になりました。

 星野氏は「星野リゾート・リート投資法人」を立ち上げた理由のひとつをこう話します。
「日本の観光産業の成長をサポートしてくれる仕組みづくり、環境づくりは大事だと思っていて、先駆けてできたことはすごく嬉しかった。リートが上場したとか、それによって星野リゾートの成長するパターンが作れたということ以上に、観光産業にとって意義深いひとつのステップ。こういう仕組みがあると、観光産業の成長を応援してくださる一般投資家が増えていくと感じています」

 所有と運営を分けることの最大のメリットは、不動産を所有しないため債務が膨らまないこと。リスクが低いため、成長のスピードが速くなることなどがあげられます。運営を優先させるために、所有は諦めるという選択。一方を優先させるために、もう一方は諦めざるを得ないという「トレードオフを伴う選択」も、星野氏が近年、よく語っている戦略の重要な部分です。数年前より全社員研修をはじめ、様々な場面で社員へ向けて「トレードオフを伴う選択」の紹介がされてきました。社員全員で戦略を共有しながら組織力を高め、お客様によりよいサービスを提供することが好循環をもたらしています。少ない人数でも質の高いサービスを提供するマルチタスクも、「トレードオフを伴う選択」のひとつです。