「読書で知的武装」するなんて実にくだらない!

「情報を仕入れるための読書」から、いい加減、卒業しよう!

ゲーテ、ニーチェ、アレント、小林秀雄、三島由紀夫……

偉人たちはどんな「本の読み方」をしていたのだろうか?

正しい「思考法」「価値判断」を身に付ける読書術とは?

哲学者・適菜収が初めて語る「大人の読書」のススメ。

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第25回

高い次元から見る

 

 今の世の中、自分の足場を固めるための読書ばかりではないですか。

 少しでも危険なもの、読者に反省を迫るようなものは避けられ、隔離される。それどころか罵倒(ばとう)される。社会通念上、許されないとか。

 一方、もっとも低劣なもの、くだらないものが絶賛を浴びる。

 すべてがそうです。

 私は最近の小説はあまり読まないのですが、たまに面白いと思ったものをネットで調べると酷評されていたりする。ストーリーがつまらないとか、オチがよくないとか。

 逆にこれはひどいと思った本が高く評価されていたり。

 以前、村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』という小説を読んだのですが、ネット書店のレビューで酷評されていました。

「ストーリーがよくない」という意見が多かったのですが、あの小説はどう考えてもストーリーの面白さを狙ったものではない。

 小説はひとことでは説明できないようなことを、ストーリーや暗喩(あんゆ)の力を借りて組み立てるものです。それで作者の世界に連れていく。

 三島由紀夫は言います。

 ゲーテの文体は、一例が「親和力」という小説を読めばわかるように、一見退屈な流れをもちながら、大波のようにうねって、ゆっくりと思想を展開していきます。われわれははじめ退屈しながらその小説に入っていきますが、次第に眼界が開けると遠い森や村落や、陽のあたった湖や牧場が眼の前にあらわれて、広大な作品世界が彼の悠々たる筆によって実現されてきます。彼は決して短篇作家の文章のように、道端の小さい野の花や、昆虫の姿態などに目をとめることもなく、悠々と山道を登って行って、大きい展望の見晴らせるところまで読者を連れて行くのであります。 (「文章読本」)
三島由紀夫 (一九二五〜七〇年) 小説家、劇作家、評論家。著書に『仮 面の告白』『金閣寺』など。一九七〇 年、自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自 殺。

 つまり、読者を強制的に高い次元に連れていく。

 そして、そこから見える景色を読者に提示するわけです。

 読者は「自分がこれまで見てきた世界はなんだったのか」と驚く。

 一流の文学はすべてこれです。

 面白かったとか、泣けたとか、スリリングだったとか、オチに工夫があったとかは表層的な話であり、その小説でしか表せない世界が示されているかどうかです。

 どうでもいいようなストーリーを次々とひねり出す作家が重宝されるのは、映画化やドラマ化もしやすいし、時間つぶしに都合がいいからでしょう。

 自分の足場を根底的なところで揺るがす一流の文学を読まないと、人間はとりかえしがつかなくなります。そのためには、いつでも自分の足場を破壊する覚悟がなければならない。

 小林秀雄は言います。

 鑑賞するのに虚心という事が必要だ、自分を捨てて他人のなかに這入り込めなくてはならぬ、という事を言いますが、これはつまり自分の心を賭けろという意味なのです。 (「文学鑑賞の精神の方法」)

 

※今回で『死ぬ前に後悔しない読書術』抜粋連載は終了します。適菜収氏の「精読術の詳細なテクニック」や「知識のアウトプット術」は、どうぞ本書をご高覧ください!

※次回以降は【『死ぬ前に後悔しない読書術』番外編】として中川淳一郎氏(ネットニュース編集者)との初顔過激対談連載(短期)が続きます。どうぞお楽しみに!

 

著者略歴

適菜 収(てきな・おさむ)

1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『日本を救うC層の研究』(講談社)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)など著書多数。