「ひきこもり」という言葉から連想するのは、一般的になんとなく男性であることが多いのではないだろうか。
 しかし、約20年間「ひきこもり」界隈を追い続けてきた池上正樹氏によると、はたしてそのイメージは正しいのか、さらにはそのイメージによって埋もれてしまい余計に苦しんでいる人々がいるという。

 一昔前までは、「男性は外に働きに出る」ことが当たり前のように考えられ、「女子は家事を支えて家庭を守るもの」という価値観を前提にして、保険や年金といった日本の社会保障制度が設計されていた。
 しかし、「ひきこもり」という現象は、男性の身だけに起きる問題ではない。ひきこもっている女性たちを阻む障壁や環境、課題について、いったい国はどこまで想像し、真剣に向き合ってきたのだろうか。

と怒りを表す。なぜなら、

 20年近く「ひきこもり」界隈を取材してきた筆者が把握する限り、ひきこもる女性に特化した実態調査は行われてこなかったために、男性と違って、彼女たちの抱える現実や課題は、なかなか見えてこない。
 2016年4月現在での最も直近のエビデンスは、2010年に内閣府が行ったデータが比較的、現実に即しているといえるだろう。
 当時の調査によると、「ひきこもり」群の定義である「趣味の用事のときだけ外出する」「近所のコンビニなどには出かける」「自室からは出るが、家からは出ない」「自室からはほとんど出ない」状態が6ヵ月以上続いていると答えた人は、1.79%で、約70万人と推計した。
 「ひきこもり」群の性別(注:二者択一)は、男性66.1%、女性33.9%だった比率を当てはめると、「ひきこもり」層の女性は、約23万6千人に上る。
 しかし、この内閣府の調査は、上限39歳までしか対象にしていない。
 最近の地方自治体の民生委員を通した調査では、全「ひきこもり」層に占める40歳以上の割合が、山梨県6割、山形県、島根県が半数を超えたことなどを考えると、女性の数は2倍の約47万人に上ると推計することもできる。
 また、調査では「自宅で家事・育児すると回答した者を除く」と定義され、データには反映されていない。

 つまり、女性ならではの肩書である「専業主婦」や「家事手伝い」などのカテゴリーで吸収されてしまった女性たちが数多く存在することを暗示しているのだ。
 このように男性よりも余計に見えなくなってしまった彼女たちの課題や問題は、現在安倍内閣がうたう「一億層活躍社会」でも解決の糸口を見出されないままやり過ごされてしまう可能性が高い。
 そこで、池上正樹氏は2016年5月に新刊「ひきこもる女性たち」を上梓する。この本では今まで可視化されなかった彼女たちの声を丁寧にすくうと同時に、現代社会に警鐘を鳴らしている。

 池上氏がこの本に込めた思いを引用する。

 統計から消され、「弱者」にさえなれなかった、そんな女性たちが最近、経験者として声を上げ始めた。これまで孤立していた女性たちが動き始め、あるいはコミュニティをつくるなどのつながりも生まれている。
 本書をきっかけに、伝えたくても言葉にできる場のなかった「ひきこもる」女性たちの思いや気持ちが少しでも理解され、今も理不尽な思いに苦しみ我慢している女性たちに勇気を与え、社会の設計が現実に即した形で見直されていく契機になれば、今回取り上げた意味があると思う。

 池上氏のいうように、これまで社会に埋まっていた、考えられてこなかった部分にも視点をずらすことは、誰もがより生きやすく活躍できる社会になるきっかけとなるのでははないだろうか。