情報への「飢え」がデマ発生の土壌になる

災害などの環境の激変と情報の枯渇が、デマの温床になる。

「動物園からライオンが逃げ出した」「川内原発が火事」「ショッピングモールで火災が発生」これらは熊本地震の際にツイッター等で出回った「デマ」である。後から考えれば、何故こんなデマを信じる人がいたのだろうかと不思議に感じるかもしれない。しかし、災害がリアルタイムで発生している中では、多くの人がこれらの情報を信じ、善意に基づいて積極的に拡散していったのだ。

 震災時のデマは熊本地震に限らず、東日本大震災でも「石油コンビナートの爆発で有害物質の雨が降る」など、多数のデマが拡散していたことは記憶に新しい。
 1923年の関東大震災では「朝鮮人が暴徒となり井戸に毒を流したり、放火している」といったデマが広まって多数の朝鮮人が殺されたり、憲兵の手によって無政府主義者の大杉栄が殺害されるといった事件が生じた。

 何故、震災時にはデマの拡散が生じるのか。少年時代に関東大震災を経験したこともある社会学者の清水幾太郎(しみず・いくたろう、1907〜1988)は『流言蜚語』という著書でデマの問題を論じているが、今回はこの本を元にして考察してみる。

 動物が環境に適応して生きるように、人間も自らが置かれた環境に適応して生きなければならない。しかし、動物は本能的に環境に適応できるが、人間は本能よりも知性を用いて周囲の情報を得ることで環境に適応していく。
 平常時には情報収集がスムーズに行われ、環境への適応も問題なくなされていく。だが、震災のように、突然環境が激変して、情報伝達手段が麻痺すると、情報収集もスムーズにいかなくなり、環境への適応も困難になる。そのような事態に陥った時、人間は情報に対して強烈な「飢え」を感じるようになるだろう。この、情報に対する「飢え」こそが、流言蜚語、すなわちデマが発生して拡散する土壌を生み出すことになる。

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