『アドラー心理学』をいかに実践するか!?

 

 この本は、いまやブームとなっている「アドラー心理学」の理論をいかに正しく、スムースに実践するかをテーマに書かれた本です。
 著者の岩井氏は三十数年に渡り、勇気づけのカウンセリング、研修、講演を行ってきたアドラー心理学の第一人者です。
 そんな著者が実践するための第一歩として掲げるのが、「オセロを意識したの生活」です。これは、非常に単純な意識づけでありながら効果が高い方法なので、ぜひご紹介したいと思います。

 オセロ・ゲームは皆さんご存じですね。両面が白と黒になっているコマでマス目を埋めていくもので、両端を黒で挟むとその間のコマも黒に変わり、白で挟むと白に変わるもので、最終的に白・黒のどちらが盤上で多くなるかを競うゲームです。
 「オセロ・ゲームの生活」とは、この原理を日常生活に組み込んでしまうことです。ここで二人の典型的なパターンを見てみましょう。

 黒の生活と白の生活

 

 黒田さんは夜更かしで朝が弱いタイプです。朝は家を出るギリギリまで布団から出られず、雨が降っていたり暑かったり寒かったりすると「ちっ、会社行きたくねぇな」とブツブツと独り言を言い、朝食も採らずに家を出ます。
 家族との朝の会話どころか挨拶もありません。駅へ向かう道のりでも昨日の深酒や夜更かしを毎日のように後悔しています(ここではネガティブな行動を黒のオセロとします)。
 会社にものそっと入っていき、後輩や部下から挨拶をされても「あっ」とか「おっ」と挨拶ともつかない言葉を口ごもるだけです。
 仕事となれば、いろいろなことがあります。契約が取れて喜ぶこともあれば(白のオセロ)、上司に叱責されて不愉快になることもあります(黒のオセロ)。残業をしていると、同僚から「帰り、一杯どう?」と誘われ、一瞬昨晩の深酒の反省が頭をよぎりますが、今日は早目に引き上げればいいや、と思い直し、連れ立って出かけます。
 しかし、いったん飲み始めてしまうと、昨夜の後悔はどこへやら、一杯が二杯、ビールから焼酎、日本酒と今日もしたたかに酔ってしまいます。家族が愛想を尽かして既に眠っている家に帰り、風呂も入らずに布団にもぐり込み、「ああ、また今日も飲んじゃったよ。胃がムカムカして気持ち悪いな」と思いながら眠りにつきます(黒のオセロ)。
 せっかく会社で白のオセロがあったにも関わらず、起きたときと寝るとき、一日の両端が黒のオセロのため、その一日は黒のオセロの一列になってしまうのです。

 一方、白井さんは、朝目覚めると軽くストレッチをして、たとえ少々風邪気味でも、外が雨でも「よく眠った。気分爽快!」と自分自身に語りかけます。
 洗面所で顔を洗い、ひげをそり、鏡で笑顔チェックをします。仕事をするうえでも笑顔が重要であることを心得ているからです。家族に「おはよう」と元気よく挨拶をすれば、家族からも「パパ、おはよう」と元気な挨拶が返ってきます。
 食卓には朝食が整えられています。家族と会話をしながら「おいしいね」と言葉に出し、しっかりとおなかを満たし、用意をしてくれた妻に「ごちそうさま。ありがとう」と感謝の言葉をかけ、そして身支度を整えた後に「行ってらっしゃい」と見送られて家を出ます。白のオセロが置かれることは間違いありません。

 会社でも「おはようございます!」と元気な挨拶をして業務を始めます。しかし黒田さん同様、仕事の上ではいろいろなことがあります。
 部下が引き起こしたトラブルに巻き込まれ、怒り心頭の客先に頭を下げに行くこともあります(黒のオセロ)。しかし、なんとか先方に怒りを納めてもらい、また部下指導に関してひとつ大きな学びがあったと捉えることができました(白のオセロ)。
 誘われた酒席でも我を忘れることなく、切りのいいところで帰宅し、可能な限り家族とお茶を飲みながら話をする時間を作ることも忘れません。妻も子どもたちもこの時間を楽しみにしてくれています。そして風呂に入って一日の疲れを癒し、好きな音楽を聴いたり本を読んだりして、布団に入ります。「今日もいろいろなことがあったが、誠意を尽くして全力で頑張ることができた。ありがたい」と、一日の前向きな振り返りをしてから眠りにつきます。
 これが白井さんの一日の終わり方であり、白のオセロの置き方です。

 こうして朝と夜に白のオセロを配置し、1日を白いオセロで満たすことが出来ます。心と体に負担を掛けず、家族や同僚、顧客などとの人間関係も良好に保つことが出来ています。

1日、1週間、1か月、1年、10年、20年……

 

 これは一日だけの話ではありません。黒田さん、白井さん、それぞれの生活を1週間、1か月、そして年単位で続けていったら、四〇代、五〇代、六〇代まで続けたら、あなたの人生の盤面はどうなるでしょうか。でも心配には及びません。今、もし黒が勝っている盤面を抱えていたとしても、今日から白に変えていくことは出来ます。

 どうやって変えるか? それには難しいことは必要ありません。あなたの心構え、気持ちひとつです。白井さんの生活はあなたにとって無理難題でしょうか?  そんなことはないはずです。

 もし、それでも「大丈夫かな」と思う場合は、ご家族に「こういう生活をしたいから、協力してくれないかな」と一言お願いするだけでもずいぶん違います。味方を増やしてください。あなたの生活を黒から白にするのに反対するご家族は少ないと思います。
 一人暮らしの方は、もうあなたの心ひとつです。誰も邪魔する人はいませんから、安心して今晩から白のオセロを置いてみてください。

 考えてみれば、昔の人は朝起きると神棚に手を合わせ、一日の無事を祈っていました。そもそも日本人は、一年の始まりに神社仏閣に初詣に行き、気持ちを新たに年頭の挨拶をし、そして年末には大掃除をして身の回りを清める、という始まりと終わりの白いオセロの慣習を、当たり前のように昔から身につけているのです。現代の私たちにできない理由はありません。

 いかがでしょう? オセロ・ゲームの生活。あなたも今日から始めてみてはいかがでしょうか。人生の盤面が白に変わっていくのを実感する、そのことも、白のオセロを置くことにほかなりません。