日本人はかつて優しく、そして気高い精神を持っていた。戦後なぜそれが失われてしまったのか。外交評論家の加瀬英明氏から話を聞いた。

  このところ、日本人が急速に劣化している。それとともに、日本の力が萎えるようになっている。
 日本が日本の態(てい)を、なさなくなっている。どこを見てみても、アメリカ型の物質文化の屑箱となってしまった。

 

 つい、三十年前までは、まだ、多くの人々が、日本人らしさを保っていたものだった。 私は日本が先の大戦に敗れた時に、小学三年生だった。おとなたちは敗戦の衝撃によって打ちひしがれて、戦勝国に媚びていたが、子どもはそのような器用さを欠いたから、アメリカに諂(へつら)うおとなたちを、信用できなかった。
 教科書が占領軍によって、ところどころ墨で塗り潰されていたが、子どもが読む本がなかったから、戦前の田川水泡の『のらくろ』のシリーズや、『カバの連隊長』、海野十三の『浮ぶ飛行島』、山中峯太郎の『亜細亜の曙』や、桜井忠温の『肉弾』を友達と回し読みして、戦中、戦前の時代精神を、身につけた。

■日本人は正気を失ったのか?

 日本は先の大戦を、国を挙げて戦った。国民が十九世紀末に獗猖(しょうけつ)をきわめた西洋の帝国主義から、日本の独立を守らねばならないことを肌に刻んでいたから、善く戦った。
 今日の日本が、独立することの尊さを忘れ、退廃してしまったのは、戦争体験が風化したことによるものだ。
 日本が独立を回復してから、かなりの期間にわたって、左翼に気触(かぶ)れた知識人や、ジャーナリズムが躍起になって、亡国的な思潮を煽ったのにもかかわらず、深い根を張ることがなかった。
 あのころは、日本国民の大多数が、正気を保っていた。

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