用件は便箋一枚に大きな字で書け。
はじめに結論だ。
理由は二つ三つを箇条書きにせよ。
──田中角栄

田中角栄(写真/時事)

 田中角栄氏は「コンピューター付きブルドーザー」などと評されたように、抜群の記憶力や洞察力と、圧倒的な推進力や実行力を兼ね備えた政治家でした。
 そんな田中氏が嫌っていたことのひとつが、時間のムダ。日々、多くの人々が陳情に訪れ、膨大な政務に追われていた田中氏のスケジュールは、尋常でないほど過密なものでした。
 田中氏は事務所のスタッフに、こう厳命していたそうです。
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 用件は便箋一枚に大きな字で書け。はじめに結論だ。理由は二つ三つを箇条書きにせよ。この世に三つでまとめきれない大事はない。話は聞いても忘れるが、紙は手許に残る。
(向谷匡史『人は理では動かず情で動く』より)
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 これはそのまま、ビジネスハックとして非常に役立つテクニックといえるでしょう。
 ダラダラと前置きを語り、よく分からないうちに本題に入ってしまう。結論にいたるまでに、背景や事情説明が延々と語られ、要点がいまいち掴めないまま、最後の最後にようやくぼんやりとした結論が出てくる──ダメなビジネストークの典型として、頻繁に指摘される会話のパターンです。しかし、うっかりすると多かれ少なかれやってしまいがちな話し方でもあります。とりわけ、自分に瑕疵があったり、相手に対して気後れがあったりなど、ネガティブな要素が絡んだ状況だと、ついつい蛇足に蛇足を重ねてしまうもの。それで、ますます相手の気持ちを損ねたり、事態を悪化させたりしてしまうわけです。この手の指摘は、コミュニケーション術を解くビジネス書や、ビジネス雑誌の特集などでもさんざん語られてきました。
 はじめに結論を述べること、理由や条件を整理して端的に伝えること。これは、たとえばビジネスメールの作法としても有用でしょう。また、自分のアタマを整理する意味でも、常に意識しておきたいスタンスです。「この世に三つでまとめきれない大事はない」。そんな視点から自分のまわりの世界を捉えてみると、まるでモヤが晴れるかのように、物事の本質が見えてくるようになるかもしれません。有能な実務者としての田中氏の世界観をうかがい知ることができる、シンプルかつ合理的な考え方です。

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