長年、「ひきこもり」問題は暗黙のうちに男性の問題として語られることが多くありました。その一方で、存在を消され声を出しづらい状況に追い込まれてきてしまった女性たちがいます。
 現場で「ひきこもり」問題をずっと追い続けてきたからこそ、今この問題に警鐘を鳴らしたいと『ひきこもる女性たち』(ベスト新書)を上梓したジャーナリストの池上正樹氏と、『ひきこもり文化論』(ちくま学芸文庫)を上梓した精神科医の斎藤環氏に、3回にわけてこれまで語られてこなかった人々の苦悩と、それを生み出している日本社会の構造について語ってもらいます。

◆事例化されなかった女性のひきこもり

 

池上 「ひきこもり」界隈の問題に20年近く前から関わっていますが、男性のほうが社会に出て働かなければいけないというプレッシャーは強いし、男性に起こりやすい現象なんだろうなという意識は僕自身のなかにもずっとありました。ところが、時々、社会から撤退せざるを得なくなった女性の方のケースをネットメディアで取り上げたときに、女性の感じる生き辛さや、ひきこもらざるを得ない現状から抜けられなくなる課題というのが、男性がひきこもった時の生き辛さのメカニズムと本質的によく似ているなと思うことがありました。

 また、そんな記事を載せるたびに、同じような状況に置かれた女性たちからも反応がどっと押し寄せてくるようになり、女性の人でも、もしかしたら「ひきこもり」で悩んでいる人が水面下に多くいるのではということをだんだんと認識し始めたのです。

斎藤 ひきこもり関係の統計を見ると、だいたい男性が7割から8割を占めているのがほとんどです。一方、ニートの男女比はほぼ同率です。これはニートというのは本人が苦しいかどうかとか、事例化したかどうかは関係ない、単に就労をしているか、していないかだけの問題だからです。ですから、女性のひきこもりが少なく見える原因は、主婦とか家事手伝いという名目で、事例化されてこなかったということにあります。

 日本は、ジェンダーイクオリティという点については後進国で、世界経済フォーラム(WEF)の2015年版「ジェンダー・ギャップ指数」でも、調査対象145カ国のうち101位と、中国(91位)よりも下です。政治参加率とか企業の幹部の女性の割合などを見ても、依然として男尊女卑です。もちろん社会参加を望む女性は拒まれないし、そういう人を叩くことはさすがにもうないと思いますが、参加しない女性に対するプレッシャーが全然ない。未だに女性は社会参加しないほうがいい社会ということの現れだと思いますね。

池上 ですから、2014年9月にNHK「あさイチ」が「女性SNEP(注:20~59歳の“社会で孤立していて、就業していない者”という意味の造語)」をテーマにしたり、2015年1月には、週刊朝日で「見えない“ひきこもり主婦”』、その後、フジテレビ系の「ノンストップ」でも、ひきこもる主婦の特集を放送したりして、メディアで取り上げられるたびに、わっと新たな女性たちから反響が来るということがありました。これらによって、今まで見えなかった女性の「ひきこもり」という課題が、より浮き彫りになったように思います。

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