「隠れアスペルガー」という言葉をご存知だろうか? 『隠れアスペルガーという才能』(発達障害カウンセラー・吉濱ツトム氏著、KKベストセラーズ)のヒットにより、にわかに注目されるようになった新しい概念である。

著者の吉濱ツトム氏(撮影・赤城耕一)

 アスペルガー症候群と言えば、コミュニケーションが苦手、興味のあることだけに異常に執着する、アクシデントがあるとパニックに陥る……こういった特徴を思い浮かべる人は少なくないだろう。隠れアスペルガー、略して「隠れアスペ」とは、これらアスペルガー症候群の症状が軽度であり、「アスペとは判別されない程度の障害」があることを、吉濱氏が定義した言葉だ。軽度であるだけに、自分も周りの人も、「生まれつき障害がある」とは認識しないまま成長していく例が多いのだという。

 たとえば、同書に登場するAさんは、小中高と優秀な成績で東大に進学。好きな研究に没頭し、順風満帆な学生時代を過ごしてきた。卒業後も、エリート街道をまっしぐら……と思いきや、社会人になったとたん初めて挫折を味わうことになる。

 大手広告代理店に入社したAさんは、同僚たちが次々と企画を提出する中、企画書を3行書くのがやっと。「あれやっといて」というざっくりした指示が理解できず、固まってしまう。雑談ができず、大事な接待の席でも黙り込んでしまう。

 なぜ皆と同じようにできないのか? どこかおかしいのだろうか……?

 実は、Aさんのように社会人になってからアスペの症状が目立ってくる人は、「隠れアスペ」に非常に多い。学生時代は自分の興味のあることだけをして、限られた人間関係の中だけで過ごしているので、アスペの症状が目立つことはなかった。しかし社会人になると、突如として多様な仕事への臨機応変な対応、複雑な人間関係の中でのコミュニケーションなどを求められる。そこでうまくできない自分に愕然とし、初めて壁にぶち当たるという例が多いのだ。

 Aさんは、広告代理店を退社後、一時は落ち込んで引きこもってしまったが、吉濱氏による発達障害改善セッションを受け、現在は別の職場で活躍している。「隠れアスペ」であれば、ほとんどの人がセッションによって症状を大幅に改善できると吉濱氏は言う。また、隠れアスペの人は、Aさんのように元来頭脳明晰な人が多く、働きやすい環境を選びさえすれば、素晴らしい才能を発揮して優秀な業績を収めることも夢ではないのだとか。

 Aさんほどでなくても、自分が、あるいは周りの人が、「なぜか他の人と同じようにできない」「一生懸命やっているのに、仕事が続かない」「人と話すとき異常に緊張する」……といった悩みを抱えていないだろうか。それは、もしかしたら「隠れアスペ」かもしれない。

 だからと言って、悲観するには当たらない。吉濱氏は言う。

「多くの優れた長所をもつアスペルガー人は、けっして社会のお荷物などではなく、今後の日本社会を支える貴重な人材となることでしょう」

 この言葉の意味を、ぜひ同書で確かめていただきたい。     (終)