昨シーズンのサッカー界、最大の話題といえばレスター・シティのプレミアリーグ優勝で異論はないだろう。降格と昇格を繰り返した「エレベータークラブ」が、マンチェスター・シティ、チェルシー、アーセナル、マンチェスター・ユナイテッドといった世界的ビッグクラブを抑え、その頂点に立った事実は驚きとともに語られた。

一方、そのレスター・シティのレギュラーとしてチームの躍進を支えた岡崎慎司は、メディアの前で「悔しい」「怒り」という言葉を繰り返した。6月初旬に発売後、たちまち6万部を突破した、プレミア一年目を振り返った書籍『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)にはその心情の変遷が詳しいが、歴史的快挙の立役者となった一年を総括する書籍のタイトルが「未到」とは穏やかではない。

なにより、日本を代表するエースストライカー、親しみやすい雰囲気を身にまとい、泥臭いプレーを信条にチームの勝利を優先し献身的なプレーを見せる「典型的な日本人選手」として語られてきた彼はなぜ、一見そのイメージと相反するような言葉を繰り返したのか。

サッカー界にとっては「奇跡」として語られるレスター・シティの一年。しかし、われわれ日本人にとっては、日本を代表するストライカーが、これまで見せることのなかった「秘めた心のうち」を明かし、新たな日本人フォワード像へ突き進もうとする一年であったことを見逃してはならない。
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ヴァーディが心配そうに部屋を見ていた

――そして同点ゴールが決まり、そのまま引き分けに。優勝が決まります。

(同点になった)アザールのゴールはすごかったですね。みんな「やべえ!!」って言っていて、その瞬間のボルテージは想像以上でした。ヴァーディの家がぐちゃぐちゃになるくらい、大男が興奮しまくっていて……ヴァーディは家が壊れないか心配そうでしたけど(笑)。それに、どこから漏れたのか、ヴァーディの家に選手が集まっていることをファンが知っていて、ヴァーディの家の周りにファンが集まっていたので、外もすごいことになっていましたね。

テレビでもばっちりヴァーディの家が映っていたんで、これ大丈夫かなってあとで思いましたけど(笑)。

――ロスタイムの気持ちというのは。

ドキドキはしていましたけど、試合が荒れていたし、トッテナムに点が入る雰囲気があまりなかったので、みんなでチェルシーの一つひとつのプレーに対して盛り上がっていました。「ウェイ!!」って言いながら。

ライブで、自分がプレーしている以外のサッカーで、しかも自分たちにも関わっている試合ってそんなにないじゃないですか。だから人の試合を観てこれだけ一喜一憂することあるんだなあって、それは初めての感覚でしたね。

――ピッチで優勝を迎えることが多いですもんね。

僕自身、プロに入って初めての優勝なんで、それも分からないといえば分からないんですけど(笑)。でも、サポーターやファンの方もこんな気持ちなのかなって、嬉しかったですね。同じ気持ちで、同じ心境で試合を観ているということが。

あとは、(サイドバックの)シンプソンを代表として初めて優勝を経験する選手たちが、「信じられない!」っていう雰囲気で優勝の準備をしているわけですよ。彼らは苦労してきた選手(マンチェスター・ユナイテッドの下部で育ち、芽が出ずレスターに)でしたから、そういう姿を見て「あぁ、優勝するのかもしれない」という実感が伴ってきた感じでしたかね。

――そういう実感を経て、「悔しさ」が「喜び」に。

はい。優勝しても満足できないだろうなと思っていたはずが、そんなこともどうでもよくなるくらい(笑)。何も考えられない、考えずに叫んでいる、そんな状態はいままで経験したことがありません。
それからは、ヴァーディの家でみんなでお酒を飲んだりもしましたね。まずヴぁーデイの家の周りがファンに囲まれて大変なことになっていて、誰も帰れる状況じゃなかったので、喜びに浸るいい時間を過ごすことができました。

――新刊『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)のなかにもありましたが、試合に出ていないメンバーも含めて、とにかく喜んでいる姿が嬉しかった、と。

そうですね。

だから僕の感じた喜びというのも、自分が優勝の力になれたから湧いてくる思いというよりも、この素晴らしいチームの一員、チームメイトでいれて良かった、というほうが近いかな。その場には出てない選手もいるわけじゃないですか。でもそんな境遇の選手をふくめて喜びを爆発させていることが、レスターに来てよかったと思わせてくれたし、優勝して良かったと思わせてくれましたね。

――なるほど。本当にいいチームだったのですね。しかし、ここからその「喜び」ですら、「未到」の境地に至っていくわけですね。

はい、そうですね。


明日のテーマは「スタメンを外された瞬間に気付いた原点」です。お楽しみに!