アドラー心理学をエッセンスとした『嫌われる勇気』が世の中で受けているのは、逆に「高感度アップ」に対して人々が心を砕いている反動ではないだろうか? 料理からファッションまで、あらゆる「好感度アップ」に取り憑かれている人々について、島田雅彦に訊いてみた。
 

 政治が隠蔽しようとしていることを見抜けないという、有権者のリテラシーの低下。これは、長年にわたる愚民政策の成果が出ているのではないか。

――昨今、フェイスブックやインスタグラムなんかのSNSを、自己アピールの場として活用しましょうみたいな風潮があって、みんな、なんかいいこと書きたがってるような印象があるんですけど。

 島田  よく飲み屋のトイレに親父の小言みたいな、ちょっと気をきかせたつもりの警句が貼ってありますよね。
 ああいう、ヘタウマな字で書いてある相田みつを的なものに言語空間というか、言論表現が蝕まれてきていると思います。

――無国籍料理とか、創作料理をうたってる店のメニューってだいたい、ヘタウマ書き文字ですよね。

 島田  メルヘン的要素が全面に入っているメニューなどもかなり気持ち悪いですね。
 女性誌などを眺めていると、好感度を上げることに取り憑かれている人々が溢れかえっている気がします。
 それこそ料理の世界でもファッションの世界でも、なんでここまで前向きにしなきゃいけないんだ? とか、どうして、そこまで相手の反応を気にしなきゃいけないのか? というね。
 そんなことよりもっと他のことに時間と金を使えよ、というようなことが結構多いですよね。まあ、ひと言で言うと痛い感じですね。

――ネットでも、やたらと「ライフハック」というのが増えてますよね。ナントカするための10の方法とか、これだけは知っておきたい15のナントカみたいな。ああいうのをみんな、どこまで真面目に読んでいるのかなと。

 島田  笑いのネタならまだいいけど、ああいうのを真に受けている人の人口が多いという、そのこと自体になんか頭を抱えたくなるんですよね。
 エッセンスだけ抽出できればよくて、他の部分はいらない。
 だから、小説なんかまどろっこしくて読んでいられない、となる。

 それがリテラシーの低下につながっていって、政治においても誤魔化しとか虚言とか、通りがいい、聞こえのいいフレーズを疑う向きが少なくなっている。きれいごとを疑うこともなく信じてしまうということになる。
 政治が隠蔽しようとしていることを見抜けないという、そうした有権者のリテラシーの低下が問題ではないか。これはある意味、長年にわたる愚民政策の成果という形で出てきてしまったわけです。
 そういうときには、ある程度、熱狂みたいなもの、たとえば家族を守るとか国家の危機とか、そういうことを言っていれば皆ついてくるだろう、という。こういうふうに高(たか)を括(くく)られる形になってしまったということにつながるわけです。

――小泉純一郎が、短いフレーズでしかしゃべらなかったのもそれと関連してますよね。

 島田  一言居士(いちげんこじ)というか、ワンフレーズポリシーですね。あれも非常に使い勝手のありそうなキャッチコピーを使って、それを連呼するというタイプのものですね。
 以前のオウム真理教の布教の方法とあまり変わらないんだけれども。それをひたすら連呼する。そして、それに反対する敵に対しては結構、攻撃的になる。
 橋下徹とか安倍晋三も小泉純一郎の手法を踏襲はしていますよね。ポピュリズムの一つの肝とも言える方法論ですね。

――小泉のときは、「抵抗勢力」という言葉で敵を十把一絡げにしてやっつけました。

 島田  自分に異論を唱える者に対して上手に敵をつくって、徹底的に攻撃する。それにあたって、攻撃の文言として通りのいいキャッチコピーを次々打ち出す。それを広めることで何か優位に立つという、そうした手法を取りますね。
 こういう場合は、あまり人の話を聞かない態度というのが有効になるわけです。
 人の話を聞く人というのは、ときどき意見を微修正したりしなくてはならないので、なにか足元が定まっていない、というふうに見られちゃうんですね。そうした誠実な姿勢を政治家がとった場合、かなり不利になるということは、鳩山由紀夫を見ているとよく分かると思いますが。

――この間も中国のAIIB(アジアインフラ投資銀行)顧問になるならないで物議を醸しましたね。善意の暴走族とか、ひどい言われようですが。


 この島田雅彦インタビューの連載を通して、コメントなどの反応について感じたのは、保守<リアリスト>VSリベラル<理想主義>という構図である。
 私の個人体験として、音楽の授業でジョン・レノンの「イマジン」などを教材にするリベラル派の教師が、なんか「ええかっこしい」に思えて鼻についた。けれど、そんな「ええかっこしい」がいないと、世の中は殺伐として、一つの方向に向かって競争するゲームのような世界に一気に押し流される気がする。
 次回、最終回。島田雅彦に「人生の嗜み」について訊いてみる<編集部>