「かち上げがきたら、“ごっちゃん”です」
 

 

 ある者は“一発KO”で腰から崩れ落ち、またある者は左眼を大きく腫らす。鼻から鮮血がポタポタと土俵上に垂れるシーンも珍しくない。先場所は大関豪栄道が左眼を眼底骨折させられた。危険な横綱白鵬の左張り手からの右かち上げ(と言うか、エルボースマッシュ気味)の“必殺ワンツー”の餌食に遭った者はそれこそ枚挙にいとまがない。しかし、親方衆の大半は角界用語を交えてこう言う。
「かち上げがきたら、“ごっちゃん”ですよ」。

 “ごっちゃん”とは「ありがとうございます」の意。白鵬のように相手の顔面を狙おうとすれば、右脇が大きく空くことになる。一撃必殺の可能性がある反面、相手を懐に入れてしまうリスクも小さくないのだ。正面土俵下で勝負を見守る藤島審判副部長(元大関武双山)も「大したかち上げじゃないのにね。相手が情けなさ過ぎる」と対戦相手の無策ぶりを嘆く。

「昨日、栃煌山がやられて痛そうだったので、寝るときに防ぐ方法を考えた」と宝富士は白鵬戦が組まれた名古屋場所5日目前夜は、対策を練るのに余念がなかった。そして、当日取組前は付け人にかち上げをさせ、防御法を入念に体に叩き込んだ。

 果たして、33連勝中の白鵬は左で張って右かち上げの想定どおりの立ち合い。対する宝富士は脇を締めて左腕をしっかり固めて当たると、横綱のかち上げは完全に封じ込められた。「慌てさせることができたかな」。上体が起きたまま、不用意に右を差しにいった白鵬のかいなを抱えた宝富士が左から小手投げを打つと、これがあっけなく決まった。

「臆病なんで攻めるほうより防ぐほうを考えた。それがよかった」と“堅守”が功を奏し、16本の懸賞金をゲット。使い道を聞かれると「貯金です。やっぱり守りですね(笑)」と財布のひももこの日の相撲ぶり同様、堅かった。一方、春場所初日、宝富士に敗れた翌日から始まった白鵬の連勝は、奇しくも同じ相手に止められたのだった。