アメリカ留学時代、ドラッグストアの棚に500錠入りの痛み止め(鎮痛剤)のボトルが1,000円程度で売られているのを見て驚いた。考えてみれば、アメリカ映画やドラマでは、まるでビタミン剤を飲むように手の平いっぱいの鎮痛剤を飲んでいるシーンをよく見かける。アメリカでは保険制度が整っていないため、多少の痛みでは医者に行かず、自分で鎮痛剤を飲んで紛らわせているのが実情だ。

 しかし慢性の痛みは徐々に鎮痛剤が効かなくなるため、服用する錠数が増え、さらにより強い薬剤を求めることになる。さすがに効果の強いオピオイド系鎮痛剤は医者からの処方が原則となっているが、医者によっては一度に大量に処方したり、メキシコなどで調達した薬が違法に売買されたりしているため、依存症に陥り命を落とす例が後を絶たない。

 最近でも歌手のマイケル・ジャクソンやプリンスが鎮痛剤の過剰摂取で亡くなったことは記憶に新しい。アメリカ全国保険統計センターによると、2014年にオピオイド系鎮痛剤を処方された患者18,893名の死亡が報告された。その数は2013年より16%増加しており、大きな社会問題となっている。  

胃に穴が開くことも

 日本でも、臨床で最も処方されている非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)であるロキソプロフェン(商品名:ロキソニン)は、医療機関と同じ用量のものが一般薬局で売られている。このNSAIDs、短期使用については大きな問題はほとんどないが、経口の長期使用では多くの副作用が報告されている。中でも胃粘膜傷害は発生頻度が高く、潰瘍穿孔(かいようせんこう。胃に穴が開くこと)を生ずれば命にかかわる重篤な副作用となりうる。

 日本リウマチ財団の調査では、NSAIDsを3カ月以上服用した患者に内視鏡検査を行ったところ、6割を超える患者に上部消化管(食道・胃・十二指腸)の粘膜病変が確認され、約2割に潰瘍があった。

 消化管病変を予防するため、NSAIDsとプロトンポンプ阻害剤(PPI)と呼ばれる胃薬が併用されることが多いが、近年PPIは認知症になる危険性が高まることや腎臓の機能を悪化させることが報告されている。NSAIDsにも腎機能を悪化させる作用があるため腎機能の落ちている高齢者がNSAIDsとPPIを長期間併用することは非常に危険である。

 また、NSAIDsの長期使用では心筋梗塞、脳卒中などの致命的な心血管系血栓塞栓性事象のリスクが増大する可能性があり、これらのリスクの高い患者には慎重に投与すべきとされている。

 アメリカ医師会では重篤な心血管系イベント(脳梗塞や心筋梗塞)、胃腸障害、腎障害のリスクがあるため、経口NSAIDsの長期投与は避けるように指導しており、アメリカリウマチ学会のガイドラインでもNSAIDsは局所的投与に留めるべきとしている。つまり、痛み止め(NSAIDs)の長期使用は健康を害する可能性が非常に高いということだ。

 それでは、痛み止め以外にどうやって痛みに対処すればよいのだろうか。グルコサミン、コンドロイチンやクルクミンのようなサプリメントには副作用はほとんどなく、軽い鎮痛剤と同様の鎮痛効果があると報告されている。私はクリニックを訪れる患者さんに、常用するのは副作用のないサプリメントにして、痛みの強いときや外出などの用事のあるときに必要に応じて痛み止めを飲むように指導している。
 

 

 

 また肩こり、腰痛や膝痛といった慢性疼痛の大部分は姿勢の矯正やストレッチ、筋力訓練などの運動療法で軽減する。運動による鎮痛効果はNSAIDsと同等と言われており、当然運動に副作用はない。さらに運動療法は痛みの原因を根本から治せることから、よりお薦めの治療法だ。もし貴方の主治医が何の検査も助言もせず、痛み止めの処方を続けるだけなら、病院を変えた方がいい。

 安易に痛み止めに頼るのは止めよう。