イラスト/フォトライブラリー

新聞やテレビのニュースで、細工したカメラを使って女子高生のスカートのなかを盗撮したり、女子トイレに盗撮カメラを仕掛けたりして逮捕された男がしばしば報じられる。刑罰は最終的には罰金程度であろうが、逮捕された男が学校関係者、公務員、有名企業の社員などだった場合、社会的な制裁のほうがはるかに大きい。職場は免職となり、離婚になって家族も失う。つまり、すべてを失ってしまう。

盗撮は犯罪である。許される行為ではない。しかし、男にはみな大なり小なり「のぞき願望」があるものだ。もちろん、筆者にもある。それは江戸の男も同様であった。 

江戸の春画には、のぞき見を題材にしたものが多い。男の「のぞき願望」に応えているのはもちろんだが、当時の住宅事情の反映でもある。というのは、江戸時代の木造建築は武家屋敷であれ、豪商の屋敷であれ、庶民が住む裏長屋であれ、のぞき見は簡単にできた。部屋と部屋の仕切りは襖(ふすま)であり、部屋と廊下の仕切りや窓は障子だった。しかも、鍵はいっさいかからない。襖や障子をそっと細目にあければ、なかの様子は容易に盗み見ることができた。

男女密会の場として、料理屋や船宿の2階座敷がしばしば利用された。周囲が平屋の場合、2階座敷であれば窓を開け放していても、のぞき見をされる心配がないからだった。

ところが、それが裏目に出た情事が、『逢夜鴈之声』(歌川豊国、文政五年)に描かれている。

夏の昼間、男と女が2階座敷で情交を始めた。江戸湾を見おろす高台にあり、しかも2階である。ほかから見える気づかいはないため、ふたりは窓の障子をあけ放ち、涼しい風を入れながら、背後位でしている。

ところが、火の見やぐらの上で涼んでいる男がいた。男は遠眼鏡(望遠鏡)で景色をながめていて、男と女が背後位でしているのを見つけた。男は独り身のようだ。遠眼鏡でながめながら男は興奮し、「おらがように不自由な者さえあるに、あのように後ろからしたら……、いやもうもう、これはたまらぬ。どりゃ、一本、かきかけよう」と、自慰を始めた。

もちろん、春画独特の誇張やふざけはあるのだが、当時の性生活の如実な反映でもあった。不倫関係の場合、亭主の留守に間男が忍んでいくので、昼間の情交となる。職人や行商人は雨が降ると仕事に行けないので、昼間、女房と交接する。こうした昼間のセックスは、どこから人に見られているかわからなかった。江戸時代、他人の房事は、その気になればのぞき見るのはごく簡単だったといえよう。