「メダルを狙える位置に居る」、充実の錦織圭 

 以前に錦織圭に、これまでのキャリアの中で特に印象に残った試合を本人に選んで振り返ってもらう……という取材を行ったことがある。

 2007年以降の全戦績リストをめくりながら、「あ~こんな試合もあったな~」と懐かしそうに目を通していた彼は、その視線が2008年8月の北京オリンピックに達すると「この試合は、よく覚えていますね」と静かに話し始めた。

 「オリンピックは、他の大会とは違いましたね。試合前までは、何にも感じなかったんですよ、プレッシャー。それが試合が始まった瞬間から、凄く重みを感じてガッチガチに硬くなって……。それまでのキャリアでは、一番プレッシャーを感じた試合だったと思います。衝撃的でした」

 4年に一度の重み、国を背負う重圧――本人が「衝撃的」とまで表現する特異な何物かが、オリンピックのコートには潜んでいた。

 その衝撃の北京から8年が経った。リオ・オリンピックは錦織が迎える3回目のオリンピックである。

 「前回のロンドン・オリンピックでは、ベスト8まで行ってたくさん自信も得られた。北京では硬くなった苦い思い出もあって、今がある。オリンピックならではの重圧はあるが、楽しみにして、メダルをもちろん狙って頑張りたい」

 北京大会時はまだ18歳で、テニス界の新顔として参戦した。4年後のロンドンは、トップ20に食い込み、より上を目指す最中で迎えた五輪だった。そして世界のトップ10ランカーとして定着した今回は、本人も「メダルを狙える位置に居る」と自覚し挑む大会になる。

 ではまずは改めて、リオ・オリンピックでのテニスのルールを確認しておきたい。

 ドローサイズ(参戦選手数)は64。コートサーフェス(種類)は屋外ハードコート。試合は基本的に2セット先取制だが、男子決勝戦のみは3セット先取制で行われる。

 通常のツアー大会のなかで、このようなリオ・オリンピックの大会フォーマットや参戦選手層に似ているのが、ハードコートで行われる“ATPマスターズ1000”と呼ばれるグレードの大会群である。今季ここまでに行われたハードコートのマスターズは、3月のインディアンウェルズとマイアミ、そして先週開催のトロントの3大会。これらの大会での戦績が、錦織のメダルの可能性を占う上で最も参照になるデータだろう。リオ・オリンピックを欠場するロジャー・フェデラーが居なかったという点も、これら3大会は合致している。

 そのマスターズ3大会での錦織の戦績は、インディアンウェルズがベスト8、マイアミは決勝進出。トロントでも準決勝で5位のスタン・ワウリンカを破り、決勝まで勝ち上がった。またそれぞれの大会で破れた相手は、インディアンウェルズではラファエル・ナダル、マイアミとトロントはノバク・ジョコビッチという上位選手たちばかり。つまり今の錦織は、自分より下位の選手に敗れることはほどんどなく、ジョコビッチを中心とする一握りのトップ選手に頂点目前で阻まているのが現状だ。

 
次のページ 立ちふさがる「最後の壁」を突破できるか