ブラジルで開催中の「オリンピック」。発祥の地は古代ギリシャのオリンピアにあることは有名な話。紀元前8世紀から4世紀まで、全能の神ゼウスに捧げるスポーツの祭典だった。この祭典には参加選手だけでなく、古代ギリシャ全土から約4万人の観客が集まり、古代オリンピックに熱狂した。
現在、首都アテネからオリンピアまでは高速バスで片道約5時間。発祥の地で、ソクラテスやプラトンも夢中になった古代オリンピックに想いを馳せた。

開催地オリンピアまで330kmを2週間かけ観戦旅行

オリンピアはギリシャのペロポネソス半島西部、首都アテネから約330km離れ

オリンピア遺跡にのこるスタディオン(競技場) 撮影/佐々木芳郎

た場所に位置していた。日本でいうと、東京から名古屋ぐらいに当たる距離だ。古代のオリンピック参加選手や観客は、インフラ整備もされていないでこぼこ道を、山を越え、川を渡って聖地オリンピアを目指した。
有名な哲学者のソクラテスやプラトン、歴史家ヘロドトスを始めとする著名な賢人や芸術家たちも観戦者の一員だった。
「アテネからオリンピアまでの旅は長すぎる」という男に対して、ソクラテスは「何が心配なのだ? アテナイでも一日中歩き回っているではないか。家から歩いて昼食を食べに行き、夕食も歩いてでかける。それから歩いて家に帰るだろう。その距離を合わせて5日か6日、歩けばアテナイからオリンピアまでの距離(約330km)になるではないか」と言ったそうだ。

実際には、道中で休憩しながら2週間近くかかり、とてもつらい旅だったようだ。男たちは皆、肩から提げた袋に着替え一組と短いマント、そして簡単な調理具や毛布などを入れて旅をしたという。裕福な人ほど旅の装備は多く、荷物は使用人に持たせるかロバに乗せた。まるで、ギリシャを横断する探検隊のような観客もいた。まさに、旅そのものがオリンピックの観戦の一部だった。

素性を隠してオリンピック観戦したプラトン

ソクラテスの弟子のプラトンは、素性を隠してオリンピックを観戦したそうだ。プラトンは観戦中、一切哲学の話はしなかった。その後、観戦で親しくなった友人たちをアテネに招くのだが、招かれた友人たちは、オリンピアの簡易宿(ユースホステルのような)に泊まり粗末な食事を共にし、スタディオン(メインスタジアム)で歓喜した仲間が、あの有名な賢人プラトンだったことを知り、「偉大な人物のそばで過ごしながら何も気づかなかったのかと驚いた」という逸話が残っている。

ヘロドトスはオリンピックを利用して名を売った

特別展「古代ギリシャ展」に展示されている「アリストテレス像」。1世紀後半/アテネ、アクロポリス博物館敷地出土/高45.5cm/大理石/アクロポリス博物館像

また歴史の父として知られるヘロドトスは、このオリンピックを利用して歴史家としての名を売った。彼はオリンピア競技会なら、ギリシャ全土やイタリア、小アジアを回らなくても、一晩で同じだけの宣伝ができると考えた。そして実際に、オリンピアでは人混みをかき分けて進み、ゼウス神殿の中で新しく書いたペルシャ戦争の著作を朗読した。作戦は大成功だった。ヘロドトスがオリンピックの勝者よりも有名になるのに時間はかからなかった。ギリシャ人は一人残らずヘロドトスの名前を知った。
また、天才アリストテレスもオリンピアを訪れている。そして、優勝者の彫像の横に自分の像を建立させた。オリンピックの優勝者は、自分の像を建てることが許された。神殿や祭壇のまわりには、きらきらと輝く彫像で埋まっておりオリンピアはギリシャ常設の博物館でもあったのだ。

 

<参考文献>
「ギリシャ記」パウサニアス著 飯尾 都人 翻訳 1991龍渓書舎
「驚異のオリンピック」(THE NAKED OLYMPICS)トニー・ペロテット著 矢羽野薫 翻訳 2004 川出書房新社
「古代オリンピック」 桜井万里子・橘馬弦 編 2004 岩波新書
「古代ギリシャ遺跡事典」 周藤由幸・澤田典子 2004 東京堂出版
「ソークラテースの思い出」クセノフォーン著 佐々木 理 翻訳

 

特別展『古代ギリシャ —時空を超えた旅—』
日時/9月19日(月•祝)まで 
休)月曜日
※8月15日、9月19日は開館。
時間/9:30〜17:00
※土日•祝は午後6時まで。
※金曜日および8月の水曜日は午後8時まで。
※入館は閉館の30分前まで。
場所/東京国立博物館 平成館(東京都台東区上野公園13-9)
観覧料/一般1600円、大学生1200円、高校生900円(いずれも当日券)
※「長崎展」が10月14日(金)〜12月11日(日)
 「神戸展」が12月23日(金•祝)〜2017年4月2日(日)に開催予定。