ブラジルで開催中のオリンピックは、紀元前8世紀に古代ギリシャで始まったとされる。発祥の町は、ギリシャのペロポンネソス半島にある町オリンピアだ。世界遺産にも認定されている「オリンピアの考古遺跡」には、多くの遺跡が遺されている。オリンピックの聖火は今も、この地にある遺跡の一つ、ヘラ神殿から運ばれている。この夏、訪れたオリンピ遺跡を訪れて知った「オリンピック豆知識」を紹介しよう。

<古代オリンピックの謎が解明されたのは19世紀末>

オリンピア遺跡にある「ゼウス大神殿の後部破」。ペイリトゥスの婚礼の席で、ラピテウス族がケンタウロスたちと戦う図である、ケンタウロスの一人は処女を、もう一人は美少年を摑まえている。    撮影/佐々木芳郎

考古学者がオリンピア遺跡の発掘に取り憑かれたのは、ローマ時代の紀元2世紀にも遡る。ギリシャを訪れた旅行家パウサニアスの『ギリシャ案内記』がきっかけとなった。彼は全10巻のうち第5巻と第6巻で、オリンピアをめぐる神話や競技会の歴史、神域にあった各種建築物や彫刻、奉納物を詳細に書き記していた。

ヨーロッパの人々が再び、オリンピア遺跡に注目したのは18世紀のこと。1766年夏、イギリスの古代愛好家協会からギリシャに派遣された調査団長リチャード・チャンドラーが、ペロポネソス半島北西部のガステューニ村で、調査乗り出したのが始まりだ。チャンドラーは、トルコ人から「川のほとりに古代遺跡がある」と教えられたことがきっかけだったという。調査は資金不足で断念することになったが、10年後に書籍『ギリシャ旅行記』を公刊。これによってオリンピアの遺跡の存在はヨーロッパ中に知れわたった。

<発掘権を巡る争い シュリーマンVSクルティウス>

シュリーマンが発掘した「アガメムノンの黄金のマスク」。埋葬者の顔の上に被されていた。現在はアテネ国立考古学博物館に所蔵されている。    撮影/佐々木芳郎

そしてその約1世紀後、ギリシャ政府は、トロイアの遺跡を発掘したシュリーマンではなくエルンスト・クルティウスに発掘権を与えた。そうして1875年からやっと、オリンピア遺跡の発掘が正式に始まったのだった。そして、ヘラ神殿を始めとする遺構や出土品から、古代ギリシャの最大の祭典であるオリンピックや、行なわれた競技内容が紐解かれていったのである。
余談だが、シュリーマンもオリンピア発掘権を政府に要求したが権利獲得に失敗。だが、オリンピアの代わりにミケーネ地方の発掘権を得て、黄金の「アガメムノンのマスク」を発見するのだ。シュリーマンは、パウサニアスやホメロスの記述をもとにミケーネのアガメムノン王の墓に注目したといわれる。

こうした遺跡発掘の背景にあったのは、19世紀ヨーロッパの古代ギリシャへの憧れブームだ。

<世界で一番、お尻が美しい男性!>

オリンピア遺跡には有名な彫刻作品が数多くあるが、当時も今も人々を魅了している美しい彫刻ナンバー1は、「ヘルメス像」かもしれない。

オリンピア博物館に収蔵されているヘルメス像。撮影/佐々木芳郎

1877年、考古学者クルティウスは、「(ヘラ神殿の)その(奉納像)中に幼児姿のディオニソスを抱くヘルメスの石堀神像。像はプラクシテレスの手になる。」と記述されていた通り、ヘラ神殿遺跡から「幼児ディオニュソスを抱くヘルメス」を発見。そして、この像は世界で最も有名な彫刻となった。
現在はオリンピア博物館に収蔵されているこのヘルメス像は、ゼウス神の頼みでディオニソスを、ヘラに見つからない場所へと連れていこうとしている場面といわれる。失われた右手には葡萄の房を、ディオニソスを抱く左手にはアポロンからもらった杖を握っていたとされる。

「ヘルメス像」を制作したのは、紀元前4世紀頃に活躍したアテネ出身のプラクシテレスといわれている。プラクシテレスは、クラシック後期の代表的な大理石彫刻家。大理石の特性を生かした表面処理技術は極めて卓越しており、古代においても高く評価されていた。と同時に、彼の神像はどれも親しみやすい神の姿で表わされており、人間的な情緒を感じられる。

実はこの作品、考古学者の間ではプラクシテレスの原作説や模刻説や別人説が

背後から見たヘルメス像。撮影/佐々木芳郎

論争されているという。この像を間近で見た私個人の感想は、「やはりプラクシテレスだろうなあ。彼の代表作クニドスのアプロディテの女神の裸像の曲線美や表面の美しさ、何より全身からエロスが発散されている!」というもの。こんな風に、素人考古学的にあれこれ推察してみたり、当時の人々の気持ちをイメージすると美術館へ行く楽しみが増えると思う。 

私はこの彫刻の鑑賞は、ぜひ背後からをお勧めしたい。そのお尻の格好の良さは、女性はもちろん男性でも惚れ惚れするはずだ。「世界一の美尻男」——。当時、週刊誌があったならば、そんな渾名が付けられたことであろう。

<エルメスもナイキも、ギリシャ神話から>

「勝利の女神ニケ像」 撮影/佐々木芳郎

因みに、ヘルメスはギリシャ神話に登場する、旅人や商品の守護神だ。ブランドのエルメスがこの神に由来していることはご存知の通り。他にもギリシャ神話は、多くの企業名やロゴマークの源となっている。ナイキは「勝利の女神ニーケ(Nike)」から、カメラのオリンパスの語源はオリンピア。また、スターバックスや出光のロゴマークは「人魚サイレン」や太陽神「アポロン」をモチーフとしている。

<参考文献>
「ギリシャ記」パウサニアス著 飯尾 都人 翻訳 1991龍渓書舎
「驚異のオリンピック」(THE NAKED OLYMPICS)トニー・ペロテット著 矢羽野薫 翻訳 2004 川出書房新社
「古代オリンピック」 桜井万里子・橘馬弦 編 2004 岩波新書
「古代ギリシャ遺跡事典」 周藤由幸・澤田典子 2004 東京堂出版
「ソークラテースの思い出」クセノフォーン著 佐々木 理 翻訳

 

特別展『古代ギリシャ —時空を超えた旅—』
日時/9月19日(月•祝)まで 
休)月曜日
※8月15日、9月19日は開館。
時間/9:30〜17:00
※土日•祝は午後6時まで。
※金曜日および8月の水曜日は午後8時まで。
※入館は閉館の30分前まで。
場所/東京国立博物館 平成館(東京都台東区上野公園13-9)
観覧料/一般1600円、大学生1200円、高校生900円(いずれも当日券)
※「長崎展」が10月14日(金)〜12月11日(日)
 「神戸展」が12月23日(金•祝)〜2017年4月2日(日)