ギリシャの首都アテネから南へ飛行機で1時間足らず―。紺碧のエーゲ海に浮かぶサントリーニ(テラ)島とクレタ島。この島で花開いたエーゲ海文明は、何千年もの歴史を誇る古代ギリシャの始まりと称される。ギリシャの古代遺跡と、島の歴史を見守ってきた生命の樹オリーブを訪ねる旅へ出かけた。
サントリーニ島でも有名な絶景スポット。                           撮影/佐々木芳郎

<火山爆発で滅びた古代都市。島の人々は何処に消えたのか?>

「古代アクロティリ遺跡」   撮影/佐々木芳郎

消滅した幻のアトランティス大陸は実はサントリーニ島だった。島で発掘されたアクロティリ遺跡を訪れると、そんな幻想を抱きたくなる。
エーゲ海のキュクラデス諸島に浮かぶ、三日月型の小さな島がサントリーニ島だ。断崖絶壁の地形に、思わず息を呑む。風が強く、島の名産品ワインを作るブドウ畑はフランスなどのように棚でなく、地面に植えられている。島北部イアの町から眺める夕陽は世界有数の絶景として名高い。頂部には白い建物が所狭しと並び、その間を迷路のような細い道が続く。
古代都市は、紀元前17世紀に起きた火山爆発で滅びたと言われる。50m近い火山灰に埋もれたため広場や住居などがそのまま遺された。1970年代から発掘が始まったが不思議なことに死者は1人も発見されず、また、小さな山羊の置物一つを除き黄金類も見つからなかった。島の人々は何処へ消えたのか……謎は未だ解明されていない。

<古代ギリシャでも盛んだったボクシング>

住居の壁は鮮やかな色彩で描かれたボクシングをする少年、ツバメが飛ぶ春の

紀元前17世紀の「漁夫のフレスコ画」(テラ先史博物館蔵)/テラ島アクロティリ「西の家」5室より出土。 ©The Hellenic Ministy of Culture and Sports- Archaeological Receipts Fund

情景、花瓶に活けられた百合、青い猿など華やかなフレスコ画で飾られていたことがわかっている。
中でも魚を手にした「漁夫のフレスコ画」(写真右)は、島の住人誰もが誇りを抱いている壁画だ。二つ束にした髪を残し刈り上げた頭部から、まだ10代の少年だろうといわれる。壁画の魚のことを、首都アテネの中央市場や料理店で誰に尋ねても知らなかったのだが、島で28年間、郷土料理レストランを経営し、シェフでもあるネクタリオス・フィドロスさん(58歳)が教えてくれた。
「手にしている魚はシイラだろう。海が深いサントリーニ近海に生息していて、今も8〜9月にだけ揚がる。高級魚で、トマトで煮るとすごく美味しい」。
古代遺跡アクロティリは、島が海運と交易で繁栄したことを物語る。サントリーニから120㎞南のクレタ島で、紀元前3200〜同1100年頃に栄えた文明とともに「ミノス文明」と呼ばれる。

<ミノタウロスの迷宮伝説が誕生した宮殿>

クレタ最大の都市イラクリオンの南5㎞にあるクノッソス宮殿。1900年から英国人の考古学者エヴァンスによって発掘された。                                撮影/佐々木芳郎
左=後期ミノスⅠB期(紀元前1450年頃)の「牛頭形リュトン」(イラクリオン考古学博物館蔵)、クレタ島ザクロス宮殿より出土。©The Hellenic Ministy of Culture and Sports- Archaeological Receipts Fund

クレタ島では、クノッソス宮殿に代表される宮殿文化が花開いた。王が君臨する一方で城壁は造られず、交易のためエジプトやシリアから商人が自由に訪れた。一辺約160m、5階建てで1300室を有したこの宮殿には下水道が配備され、王妃用の水洗トイレもあった。海に遊ぶイルカや百合の王子、宮殿を発掘した考古学者たちが、その艶やかな容貌から〝パリジェンヌ〟と呼んだ巫女などのフレスコ画は華やかな当時を偲ばせる。
また、ザクロス宮殿から発掘された黄金の角の「牛頭形リュトン」も有名。牛は、宗教儀礼で重要な役割を果たしたとされる。ギリシャ文化研究者で東北大学准教授の芳賀京子さんは「牡牛を祀るクレタの王国は、周辺の国々には、おどろおどろしく感じられたことでしょう。牛頭人身のミノタウロスを閉じ込めたという迷宮伝説など数々の神話を誕生させることに繋がったのかもしれません」と話す。

<島を守るオリーブの樹齢はなんと3000年以上! >

1995年アテネの研究所が古木を測定。空洞の幹の太さや周辺環境から、樹齢3000〜5000年と推定され世界最古と評判を呼ぶ。1997年国の保護樹林になった。村には同じような樹木が10本ぐらいあるそうだ。            撮影/佐々木芳郎

クレタ島の繁栄を支えたのは、ミノス人が栽培し始めたオリーブによる富。現代でもオリーブは島を代表する農産物だ。古都ハニアから西へ15㎞、ヴーヴェス村の樹齢3000年とも5000年ともいわれるオリーブの樹を訪ねる。古木の隣に住んで200年というカラパターキ家の三世代の女性がかわるがわる話してくれた。
「クレタではオリーブから採れるオイルを、洗礼式や結婚式、石鹸やシャンプー、薬など生活のあらゆる場面で使います。第2次大戦中、ドイツ軍の占領下では、栄養価が高いオリーブのお陰で村は飢餓から救われたのです」。
クレタ料理は「オリーブオイルの中で泳いでいる」と云われるように、クレタの一人当たりのオリーブオイル年間摂取量は、日本人約0・3ℓに対し、100倍の約30ℓ。1970年アメリカの生理学者キーズの報告書で島の食事様式が注目されて以来、長寿を誇る島として世界中に知られている。

長寿の村として知られるアギアパラスケ村。写真の皆さん全員、86歳以上。杖こそ手にしているが実に元気で、「マリアの店」に集まって談義するのが日課だ。     撮影/佐々木芳郎

<アギアパラスケ村で知る健康長寿の秘訣>

それを象徴する村が、アマリウ市アギアパラスケ村。33人の村民のうち、10人が86歳以上だ。毎朝8〜11時頃まで、村唯一のカフェ「マリアの店」前のイナゴ豆の樹の下で、農産物の情報交換や政治談義を交わす。人々が食するのは、全知全能の神ゼウスを育てたという山羊のミルク、チーズやヨーグルト、そして遺跡出土品にもある蜂蜜やエスカルゴ。古代からの食生活が今も続いている。
何千年という時空を超えた暮らしが、クレタ島にはあった。

特別展『古代ギリシャ —時空を超えた旅—』
日時/9月19日(月•祝)まで 
 

休)月曜日
※9月19日は開館。
時間/9:30〜17:00
※土日•祝は午後6時まで。
※金曜日および8月の水曜日は午後8時まで。
※入館は閉館の30分前まで。
場所/東京国立博物館 平成館(東京都台東区上野公園13-9)
観覧料/一般1600円、大学生1200円、高校生900円(いずれも当日券)
「長崎展」10月14日(金)〜12月11日(日)
「神戸展」12月23日(金•祝)〜2017年4月2日(日)