PTSDの克服には長いリハビリが必要。なぜなら、人間の脳と心はPTSD(心的外傷後ストレス障害)やフラッシュバックを起こすからだ。精神科医の香山リカ氏が語るそのメカニズムとは。
 

シリアからの難民が溢れる欧州では、「イスラム国」のテロリストが難民に潜り込んでいる危険が指摘されているが、それとは別に、一度は「イスラム国」に志願した若者たちが、「イスラム国」の現実に幻滅し、脱出して帰国するというケースも多くなっているらしい。

2016年3月23日(日本時間)、ちょうど、トルコでISに参加しようとした日本人の若者がトルコ当局に拘束されたというニュースが飛び込んできたので、この問題について考えてみたい。

 

確かに、欧州では、一旦は「イスラム国」に参加したものの、その現実に幻滅し、脱出して帰国するというケースも多くなっていると聞く。とはいえ、一度は信じたものの精神的影響はそうそう簡単に抜けきるものではない。そのことはカルト宗教などに入信して、その後脱会した人などに起こるPTSDを考えてもわかる。精神科医の香山リカ氏は『テロリストの心理戦術』(KKベストセラーズ)の中で次のように述べている。

精神科医の香山リカ氏

《かつて、カルト宗教を脱会した女性といろいろ話したことがあった。彼女がその教団をやめたのはもう20年も前なのだが、それからずっと「やめたことを後悔しないくらい、生活を充実させなくては」という思いが頭から抜けず、いわゆる「ふつうの生活」がなかなかできなかったという。彼女はそれから大学院に行ったり海外留学したりと、かなり過剰にがんばる生活を続け、いまはかなり専門的な仕事について人前で講演するなど活躍していた。しかし、そういう目でこちらが見るからかもしれないのだが、ずいぶん無理をして自分のテンションを上げているような感じだった。「もっと自然でよいのでは」と心配になったのだが、彼女としては「20年前のあの日々から少しでも遠くに来たい」という気持ちが常にあり、「ダラダラしていると戻っちゃうのではないか」「人生に失敗したら結局、あのままがよかったと思うのではないか」と感じているのだ。

そんな彼女は、私にこう話してくれた。

「もちろん、今ではその教団に何の未練もありません。でも気になるんですよ。やっぱり。どうなっているのかな、って。あれほど真剣に勉強して教義なども覚えたので、今でもふとしたときにそれが頭に浮かぶんです。そして、どこが間違っていたのか、本当にあの教義はおかしかったのかな、などと今でも真剣に考え込んでいるんですよ。自分では脱会したことをすっかり納得しているつもりなのに」

このように、一度、強烈な教団や組織に入ったり入ろうとした経緯は、とくにそれが若い時代だった場合、なかなかその人の心や頭からすっかり消えることはないのだ。》(続)