今の青年の中にも偉い者もあれば、
昔の青年にも偉くない者もあった。
──渋沢栄一

写真:近現代PL/アフロ

 渋沢栄一氏の言説は、広く天下国家を論じ、俯瞰的な視点で社会や経済の要諦を指摘するものも多いので、読み方によってはどこか身の丈感に欠けるというか、話が大きすぎて掴みどころがないように感じるかもしれません。
 前回までに記したように、渋沢氏が手がけてきて膨大な事業が、日本の近代化をどれだけ推し進め、人々の暮らしを豊かにし、知識を授けてくれたことか。そのスケールの大きさを思うと、尊敬を通り越して、畏怖の念すら抱いてしまいます。また、『論語』に代表される儒教的な教えを土台にした渋沢氏の価値観は、折目正しすぎて、場合によっては窮屈に感じてしまうこともあるでしょう。
 しかし、渋沢氏の語ることをつぶさに見ていくと、実は極めてシンプルな思考から成り立っていることに気づくはずです。
「他人を思いやる気持ちが大事」「私利私欲に走らず、自分のやるべきことを責任もってやり遂げよう」「感謝の気持ちや礼儀を忘れないように」「勉強を怠らず、知識を蓄えよう」「友達や家族、仕事仲間を大切にして、誠実に生きよう」──いわゆる、儒教の五常「仁・義・礼・智・信」として語られるような、人として忘れてはならない勘どころを忠実に押さえながら生きていこう、と語りかけているにすぎません。渋沢氏流にいうなら「お天道様に恥ずかしくない生き方」といったところでしょうか。たとえ誰も見ていなくても、誰も気づいてくれなくても、お天道様はちゃんと自分のことをちゃんと見ている。だから、お天道様を失望させないように生きよう、という具合です。

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