■首位決戦の初先発

初先発の大役を果たした杉浦双亮。

「タッチしただろ!」

 球場に響き渡る大きな声は、チームに溜まったフラストレーションを象徴していたかもしれない。

 四国アイランドリーグ、後期日程。8月20日に坊ちゃんスタジアムで行われた、首位・愛媛マンダリンパイレーツ(愛媛MP)と2位・香川オリーブガイナーズ(香川OG)の一戦は、0.5ゲーム差のなか互いに落とせない一戦となった。

 愛媛MPは、9連戦の8戦目。疲れの溜まる投手陣にあって、この重要な一戦を、シーズンとおして公式戦、初先発となるサブロク双亮(杉浦双亮・360°モンキーズ)に託すことを発表していた。後期日程の登板は、わずか2試合で1回と1/3。お笑い芸人と二刀流を続ける右腕にとって、初の先発マウンドとしては少なくない負担があっただろう。サブロク双亮は言う。

「2ヶ月前に弓岡監督に先発を告げられていました。“お前にプレゼントする”と。ずっと近くで僕の練習を見てきてくれて、結果は出ていないけれど大事な先発マウンドを託してくれたので、絶対に監督を男にする。いいピッチングをしたい、と思っていました」

 一方、弓岡は試合後にこう振り返っている。

「正直、よくてひと回りかな、と。1回でも2回でも抑えられればと思っていましたけどね、まさかここまでとは……。100点満点ですよ」

 弓岡監督がそう言うとおり、サブロク双亮は予想を裏切る快投をみせた。

 初回に2番バッターをフォアボールで出すも、以降5回1アウトまで11人連続アウト。結局、勝利投手の権利まであと1アウトとなる4回2/3、76球を投げて、無失点。被安打0に抑えてマウンドを降りた。

「5回は握力が入らなくて。人生で初めて右腕が攣(つ)りました。2アウトまで行ったのでなんとかあとひとり、と思ったんですけど、連続でフォアボールを出してしまったから仕方ないです」

 1対0で勝っている状況、2アウト満塁でマウンドを降りた右腕はそう悔しさをにじませたが、顔には充実感がうかがえた。

 その後試合は、愛媛MPリリーフ陣がしっかりと香川OGを抑え、3対1の快勝。首位の座をしっかりと守った。

 この試合、150キロを超えるスピードボールを投げる投手もいる中、サブロク双亮の最速は123キロ。それでも90キロ台のスローボールを投げ込みながら、丁寧に内外角を突きバッターを詰まらせた。

 サブロク双亮が降板した後の8回には、愛媛MPが追加点を奪ったホームへのクロスプレーで、香川OGの西田監督が判定に抗議を見せるシーンもあった。
 40歳、140キロはおろか130キロにも満たないストレートで打者を手玉に取ったサブロク双亮の76球は、実に有意義なものだった。