広く世界を見渡すと、巨大な魚は数多く存在している。なかでも10メートル前後にもなるジンベイザメは、海の王者ともいうべきサイズだろう。鯨やシャチは哺乳類だが、いずれにしてもそのスケールの大きさは海ならでは。これが、川や湖のように淡水ともなれば、その大きさにはおのずと限度がある。1メートルあれば立派な巨大魚に括られるだろう。とくに北米の「アリゲーターガー」は3メートルにもなるといわれる肉食魚で、最近の外来種騒動に漏れず、国内でも放流されたものがおり多数目撃されている状況だ。このような巨大魚は、北米大陸という広大な大地にある大きな河川で脈々とその血を引き継いできたからに他ならない。日本にこうした魚がいないのは、狭い国土の小さな川ではこうした巨大魚の育つ環境が整っていないからともいえる。

 山形県以東岳の麓にある大鳥池。人里から山を登ること約3時間半、人影もまばらな場所にあるこの池は、約2万年前の氷河期に起きた大規模な土砂崩れで川がせき止められたときにできたといわれている。この氷河期の環境をそのまま残した大鳥池に、「タキタロウ」と呼ばれる巨大魚の目撃情報がたびたび寄せられているのだ。そもそもこの池では、70センチメートルクラスの「岩魚」は何度も捕獲されている。人の手が入らず、大自然に封じられた自然環境だからこそ、一般的なサイズより大きく成長することは解明されているのだ。

 この「タキタロウ」が文献にはじめて登場するのは1885年。松森胤保によって書かれた「両羽博物図譜」にその名が確認されている。「岩魚」の項目には、「大物を『瀧太郎』という。1.5メートルほどのものが、大鳥川より流れてくることがあると聞く」と記述され、存在自体は明治時代に確認されているのだ。以来、捕獲したという話は何度かあり、当時の村人はこれを食したらしい。脂の乗った赤身(白身説もあり)で非常に美味とされ、ますますその存在は現実味を増している。

 1982年、麓にある朝日村の役人を含む数名が、この池を訪れたときに巨大な魚影10匹ほどを目撃したという。巨大なそれはそのとき、15分ほど小魚の群れを追いながら姿を消したというが、遭遇したことのある村人の話では、大きな口をあけて逆襲するほど気性も荒いと伝わる。一説では氷河期に封じ込められた「岩魚」あるいは「ヒメマス」ともいわれているのだが、大規模な調査が行われても、未だその正体は掴めていない。

 外来種に押され気味の在来種だが、いつの日かその実態を白日のものとして、国内にも生息する巨大魚の名を世界に知らしめてほしいものだ。

「タキタロウ館」鶴岡市大鳥字高岡