実に様々なアンチエイジングの方法が注目を浴びている昨今。しかし、究極の若返り術は、自分の若いクローン人間を作り、今の自分の脳をそこに乗り換え続けることではないでしょうか? 倫理的な問題はさておき、果たしてそんなことが実際に可能なのか、竹内薫氏と丸山篤史氏に伺いました。

クローンを使えば老化を克服できる……?

 人間が、自分の若いクローンに自分の脳を移植することが可能だと仮定した場合、まず頭の中のどの部分が「私たちの心」なのか、という問題が重要になってきます。

 

 人間の理性的な判断や知性は、大脳新皮質(大脳の表面)のうち前頭前野とよばれる、おでこの奥あたりが大事だと考えられています。また、記憶という意味では、海馬や扁桃体のような大脳の少し奥まった深い部分と大脳新皮質のうち側頭葉とよばれる、耳からこめかみの奥が大事だと考えられています。でも最近では、脳が、そうしたバラバラのパーツの寄せ集めだ、とは考えません。というよりは、それぞれの脳部位が、得意な機能ではメインになって働きながら、全体としてバランスを取るのです。さらにアチコチの部分が協同して情報を処理することで、意識が作られている、と考えられるようになりました。なので単純にいうと、首から上を全部移植するべきかもしれません。

 ただ、クローン人間を使った若返りにも問題はあります。たとえ作ることができるとしても、自分の希望する年、たとえば20歳くらいの身体に若返りたいとしたら、身体が育つまで20年待たなきゃいけないのです。野菜や花卉のように、人間は促成栽培ができませんからね。
 そして、もっと大きな問題があります。脳がないまま身体だけ育てることは、今のところできません。脳を移植したのちに、20年かけてクローンの身体を育てる必要があります。つまりその間、脳はずっと意識がある状態なのであり、また20年分の記憶も蓄積されていくこととなります。SFでよく取り上げられるテーマですが、非常に残酷です。

 今のところ、世界のほとんどの国ではクローンは研究できません。日本でも、生殖細胞までは許されていて、精子と卵子を作って実験に使うところまでは許可を申請すればできますが、それらを受精させることは禁止されています。受精した時点で一人の人間になるわけですから、それを実験に使うとなると、生命倫理の問題になるわけです。
 老化を乗り越えるために、スペアとしてクローンを作るというのは、理論的・技術的には可能かもしれませが、やはり現実的ではありません。それなら全身サイボーグを考えたほうがいいかもしれませんね。つまり肉体と同じ機能を持った機械の中に、脳を入れるわけです。いわゆるアニメの『攻殻機動隊』に出てくる全身義体ですね。今は、人間の肌の感触にそっくりな人形もあることだし、ソフトな素材で全身義体を作れば、まあまあ快適かもしれません。あとは適切な感覚信号を脳に送ることができれば、一応SF的な世界としてはクリアです。

<『老化に効く!科学』より抜粋>