「徹夜がつらくなった」「物忘れがひどくなった」「駅の階段でひと休みしてしまう」などなど、日々の生活の中でふと実感する「老化」。そんな身体の衰えとどう向き合っていくべきか、サイエンス作家・竹内薫と生物学者・丸山篤史が語り合いました。

 

「年老いてしまったからもうダメだ」
と思うことこそが、自分をダメにしてしまう

 

竹内 先日あるイベントで、50代からが働き盛りだという話を聞きました。普通は30代や40代のほうが働き盛りといわれるはずなのに、どういうことだろうと思いますよね。
 どういうことか、というと、こうです。つまり、若い頃に比べて、いろいろと老化はしています。でも、いわゆる「脂がのった」活動のピークは、どうやら50代にくるということなんですね。
 確かに、記憶力や瞬発力は落ちたように感じます。ですが、脳は、それほど老化しないのです。むしろ、物事の全体像を把握する能力や、総合的な判断力は増していきます。

 たとえば、コンピュータのプログラムを何もないところから書くというのは、年を取ると厳しい。でも、若い人たちが書いたプログラムを見て、これは全体として何か危ないぞとか、ここに問題があるんじゃないとか、この辺りにバグがありそうだとか、そういった全体状況を把握した判断はうまくなるのです。これは、きっと経験値が利いているのでしょう。
 私はテレビの仕事もしていますが、番組の司会者を見ていても、30代よりは圧倒的に50代の人のほうが多いのです。特に生放送の現場で、それを感じるものがありますね。全体を統括して、時間を見つつ、コマーシャルが入るタイミングを考え、どのコメンテーターに話を振ろうか、など、あらゆることを総合的に判断して番組を進めていくというのは、やはり経験値が高くないとうまくできないのでしょう。

 つまり脳の場合は、老化によって一部の機能が衰えたとしても、逆に増していく部分も多いのです。経験値によって作業がこなれてきたり、無駄なことをしなくなったり、高度な状況判断ができるようにもなるのです。
 そういったことを考えると、年老いたから、もうダメになってしまったと思うことが、本当に自分をダメにしてしまうのではないでしょうか。マルちゃんは、どう思いますか?

丸山 僕も、竹内先生と同じ意見です。心理的な面でも、絶対に悲観的にならないほうがいいと思います。認知症のような病気は別として、脳の場合は「老化」といっても普通の人が心配するほどのものはないと思います。
 ギリシャの哲学者アリストテレスは、「一人前の大人になるのは30歳半ばだ」と言ったそうです。これってすごいことだと思うんです。なぜなら、その時代のギリシャの平均寿命は42歳ぐらいだったんですから。今の、平均寿命が80歳を超える現代人を見たら、ソクラテス先生からは「60代後半ぐらいにならないと一人前じゃない」と言われてしまうのかもしれませんよ(笑)。