まさかの(!?)大関豪栄道の全勝優勝で幕を閉じた先の9月場所。千秋楽の東支度部屋の一番奥では、賜盃を抱いた優勝者を真ん中に恒例の後援者らとの万歳三唱と記念撮影が行われ、華やかなムードに包まれていた。

 今場所の主役とはだいぶ距離を置いた同じ東の支度部屋では、もう1人の大関が取り囲む数人の記者に向かって、ポツリポツリと胸の内を語り出した。3場所連続で挑んでいた稀勢の里の綱取りは、完全に白紙に戻された。それでも4場所連続2桁勝利となる10勝の星。大関の責任だけは果たした。

「それだけでしょうね。あとは何もいいところがない」とガックリとうなだれていた。
 今年3月場所で千秋楽まで優勝を争って13勝をマーク。以来、半年以上もの間、マスコミ陣は綱取り大関を追いかけ、相撲ファンは彼の一挙手一投足に注目してきた。そんなプレッシャーに晒され続けてきた日が、ひとまず終わった。

「何を言っても言い訳だから」
4場所にも渡って体調と緊張感をピークで維持することの難しさや苦しさは、経験した者にしか分からないであろう。9月場所は序盤で1勝2敗と躓いた。その後は7連勝と持ち直し、11日目、豪栄道との直接対決を迎えた。果たして、序盤は稀勢の里が押し込む展開となり、後退した豪栄道は一瞬、バランスを崩す。前場所までの豪栄道ならこの場面で引いてしまい、さらに体勢を悪化させていたに違いない。しかし、今回は引かずに我慢して攻め返し、機を見て懐に入ると一気の出足で渡し込んだ。

 振り返ってみれば、この一番が両大関にとってターニングポイントだったような気がしてならない。勢いに乗った豪栄道はそのまま全勝優勝へと突き進み、一方の稀勢の里は痛恨の3敗目を喫し、綱取りの望みは実質的にこの敗戦で断たれた。

「しっかり体を休めて、また稽古場からやろうという気持ち。それ以外にない」

 祝福ムードの輪から離れた支度部屋の一角で、プレッシャーから解放された大関は悔しさを押し殺し、静かに再起を誓ったのだった。