老人ホームの個室で介護士がみた風景とは

門倉貴史著のベスト新書『不倫経済学』より、老人ホームで問題になっている高齢者の性の問題を紹介する。

 にわかには信じられないかもしれないが、老人ホーム・介護施設では、まれにアルツハイマー病などの認知症を患っている高齢入居者の男女が性交渉を試みようとしたり、介護士が目を離したすきに、実際に個室で性交渉に及んでしまうことがあるという。  

 私が、かつて東京都内の某老人ホームで働いていた元介護士(男性)の方から実際に聞 いた話を紹介しよう。ある秋の深夜、その介護士が安否確認のために施設の各部屋を巡回していると、3階の角部屋から「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」という怪しげな声が断続的に 漏れ聞こえてきた。最初は空耳かと思ったが、耳を澄ますとベッドがきしむ音とともに、 やはり「はぁ、はぁ、はぁ」といううめき声が聞こえてくる。

 「いったいどうしたんだろう? Aさん(角部屋に入居している70代の男性)、喘息の発作が起きて苦しんでいるのかな? ブザーを鳴らしてくれれば、すぐに介護職員が駆けつけるのに」と思って、そっと部屋のドアを開けてのぞいてみた。すると、介護士の目に衝撃的な光景が飛び込んできた。彼は一瞬自分の目を疑ってしまったという。  

 それは、窓から差し込む月明りのもとで高齢の男女が後背位で性交渉に及んでいる場面 だった。実は、認知症を患っている80代の女性入居者が、自分の部屋を抜け出して徘徊し、日頃仲良くしているAさんの部屋に忍び込んでいたのだ。Aさんも認知症を患っていた。 発見時には、2人とも下半身が裸の状態であったという。  

 どうやらこの女性は、Aさんをすでに亡くなっている自分の夫と思いこんで、Aさんが 寝ているベッドの中にもぐりこんでしまったらしい。寄り添って寝ているうちに、お互い に気分が高揚してきて性交渉に及んだとみられる。  

 
 
 

世界の老人ホームは高齢者の性とどう向き合っているか

 同様の事件・事故は、日本だけでなく米国の老人ホーム・介護施設でも起こっている。 米国では、高齢者の性の問題を無視することなく前向きにとらえて、とにかく明るく楽し く生きることを重視した老人ホーム・介護施設も登場するようになった。  

 たとえば、ニューヨークにある「へブルーホーム(Hebrew Home)」という老人ホーム では、入居者は自由にポルノ映画を閲覧することができる。また、入居者同士で性交渉をすることも認められている。  

 認知症の高齢者同士の性交渉をある種の逸脱行為とみるのか、恋愛感情の自然な発露ととらえるのかは非常に難しい判断だが、少なくともこのような問題は20~30年前の介護の 現場では考えられなかった事象である。

 それだけセックスに関して、精神的にも肉体的に も積極的な老人が増えてきているということの証左だろう。  

 老人ホームでの高齢者(認知症の患者を含む)同士の性交渉を、法律的・倫理的にどの ようにとらえて、どのように対処するのかという問題に向き合うことは、これから先、ま すます重要になってくることは間違いない。   

 というのも、2025年には、約800万人と言われる団塊の世代(1947~1949年生まれ)が75歳(後期高齢者)を迎えることになり、性に積極的な老人ホームの入居者が一気に増えると予想されるからだ。

<ベスト新書『不倫経済学』(門倉貴史)より抜粋>