『老子道徳経』九章
盃に満ちた酒はこぼれる
 
持して之をみたさんとするは
其の已むに如かず。

──酒を満たした杯は、いつまでも手に持っていればこぼれる。

 

欲望を握らない生き方

 今月の老子の言葉は、第九章「酒を満たした杯は、いつまでも手に持っていればこぼれる」です。この意味は、酒が7割くらい入った杯ならば、持っていてもこぼれないけれど、酒を満たした杯は、保つことが難しく、すぐこぼれてしまいます。つまり、この酒を財産、地位に置き換えて考えればよくわかります。杯の大きさは人により違いはありますが、めいっぱい その杯を満たしたら、いつまでもそれを握っていないことなのです。財産も地位も、また手放して、次の代に引き継ぐ循環が大切なのです。つまり老子は、欲望を限り無くエスカレートさせて、いつまでも執着しては危ういということを説いているのです。大きなものを手にしても、握らない生き方。つまりある地位を得たら、また次の人に其の座を譲る時を逃さないことです。これがなかなか出来ない人が多いのです。心にとめておきましょう。
 

 

健康も過信は危険

 私たちは、自分の健康についても過信しやすい傾向があります。特に、若いころスポーツで鍛えて病気などしたことのない方は、自分の健康に自信がありますから、無理をしやすいのです。年を取っても自分はこんなに丈夫だ、と見栄を張っていると、大変なことになります。私たちの体は、これまでの長い人生を、文句も言わずに黙って支えてくれたのですから、年と共に、その体にも目をむけて、手入れをすることが大切ですね。これを中国の医学では養生(ようせい)と言います。病気になるまえに、体を大切に養ってやることです。

足りないくらいがちょうど良い

 食事も腹八分目に医者いらず、というように、健康を保つには、体の元気を使い切ってしまわないことです。ちょっと足りないくらいが、健康で楽しい人生を送るには、大切なポイントとなります。特に若いころから元気でこられた人は、無理をしやすいので、気をつけましょう。そしてまた、人生は到達した地位や財産が幸せをくれるのではなく、好きな仕事に挑戦し、日々努力をし、仕事をする、その人生の過程そのものが楽しいのです。たとえその目標が大きくても小さくても、いいのです。仕事だけでなく、趣味でもそうです。昔から絵を描きたいと思っていた人なら、楽しんで描けばいいのです。その絵が賞賛されなくても、描くことを楽しめば良いのです。人がどう思うか、また、自分はもう何歳だから、男性だから、女性だから、そんなことはどうでも良いのです。今目の前の人生を、元気を使い尽さずに、少し余裕を残して、悔いなく楽しく生きること、それが、老子が教えている、人生を楽しく生きる、こつなのです。