日本ではクライマックス・シリーズ、米国ではポストシーズンの熱い戦いが繰り広げられている。一方、ボストン・レッドソックスの敗退はディヴィッド・オルティスという稀代の選手の引退を意味した。別れの季節でもある。
 そんななかでこのシーズン日米を沸かせた選手がイチローだった。今回は、米国ニューヨークを拠点にMLBを取材し続け、9月には『イチローがいた幸せ』(悟空出版)を上梓した杉浦大介氏に、人はなぜイチローに魅了されるのか、魅了された人間はいったいどんな表情を見せたのか……取材過程で見えた、メジャーにおける「現場」の声を紹介してもらう。
 

■メジャーでも正真正銘のビッグネームであるイチロー

 2001年に渡米してきて以降、イチローはアメリカにおいても正真正銘のビッグネームであり続けてきた。そして、大リーガーとして16年目のシーズンを迎えた今年8月7日、彼は殿堂入りを確実とする通算3000本安打を達成させた(結局、3030安打にまで記録を伸ばしてシーズンを終えた)。キャリアのひとつの到達点を迎えた直後の今は、そのキャリアを改めて振り返り、総括するのには適切な時期だろう。

 筆者は1999年にニューヨークに渡り、2000年代前半からスポーツライターとしてメジャーリーグを取材してきた。遠い西海岸のシアトルに本拠地を置く選手だったにも関わらず、イチローに関する噂話は早い時期から届いてきた。それでは、イチローの何がそれほど特別なのか。メジャーで成功できた理由はどこにあり、42歳になった今までどうやって力を保ってきたのか。彼の指揮官になった人物たちは何を考え、どのように彼を起用してきたのか。そして、対戦した投手たち、あるいはチームメイトたちの想いは……3000本安打達成に前後して、私はそれらを解き明かし、イチローの魅力を探るための旅に出た。そして、全米各地のスタジアムを渡り歩き、50人に及ぶ選手、メディア関係者たちからそれぞれのイチロー像を取材していくなかで、日本からは窺い知れない「リアル・ヴォイス」に触れることができた。ここで、その一端を紹介しよう。

 2008年、低迷を続けるマリナーズにあって、個人記録を維持するイチローに対してチーム内から冷たい視線が向けられたことがあった。当時の監督で、固い信頼関係を結んでいたジョン・マクレーンの言葉はとても印象深かった。