腸には血糖値を下げるスイッチがある

 
肥満は糖尿病のリスクを高めると言われるが、同じように食べても太る人と太らない人がいるのはなぜだろう。長い間遺伝的要素によると考えられてきたが、近年、肥満と腸内細菌の関係が明らかにされ、注目が集まっている。

2006年、イギリスの科学雑誌『ネイチャー』に米ワシントン大学のジェフリー・ゴードン博士らが発表した理論は、肥満の人とやせている人の腸内フローラは違うという画期的なものだった。肥満の人の腸内細菌には、消化しづらい食物繊維まで栄養に変えてしまうファーミキューテス類(デブ菌)が多く、バクテロイデーテス類(ヤセ菌)が少ないというのだ。それに対し、やせている人の腸内細菌は、デブ菌が少なくヤセ菌が多かった。さらにその後の研究では、肥満の人が、食事指導によって1年間ダイエットした結果、デブ菌が減ってヤセ菌が増えたことが確認され、腸内環境をコントロールすれば太りやすい体質を変えられることまで証明された。

最近では、中国とスウェーデンの研究チームから相次いで、日本人に多いⅡ型糖尿病(慢性的に血糖値の高い状態が続く)の発症にも腸内細菌が関わっているという報告が『ネイチャー』に発表された。Ⅱ型糖尿病の人の腸内フローラは、ブドウ糖と脂肪の代謝で重要な役割を果たす酪酸(らくさん)を産生する善玉菌の量が、健康な人に比べて減少しているという独特の特徴が見られるそうだが、まだ明確な因果関係までは証明されていない。理化学研究所で40年以上腸内細菌の研究を続けてきた辨野義己さんに腸内フローラと肥満の関係について聞いた。

「肥満も糖尿病も、過剰なエネルギー摂取を控え、適度な運動をすることが大切なのは言うまでもありません。自分自身の経験からも、善玉菌であるビフィズス菌を多く含むヨーグルトをたくさん食べて腸内環境をよくすることは、肥満を解消し、ひいては糖尿病のリスクを下げることに繋がると実感しています。ただし、やせたいからと急に激しい運動をすると、足腰を痛めるので気をつけましょう。無理なくゆっくり始めて、少しずつ運動量を増やすようにしてください。大切なのは、継続することです」

また、小腸から分泌されるインクレチンというホルモンは、血糖値を下げるスイッチになっている。通常、食事をして血糖値が上昇すると、膵臓からインスリンが分泌されて血糖値を下げるが、インクレチンがその分泌を促進し、血糖値の上昇を抑制しているというのだ。インクレチンは、胃にも働きかけ、その動きをペースダウンさせて、腸へと送られる食べ物の量を調節。その結果、食後に高血糖になるのを防ぐうえ、中枢神経系を通して脳にも働きかけ、食欲を抑える働きをしている。

「つまり腸は、入ってきた食べ物をただ消化・吸収しているだけではないんですよ。インクレチンを分泌することで、『これから血糖値が上がるけど、下げてほしい』とか、『栄養は充分だから、これ以上食べないで』というような指令を各臓器に伝え、血糖値を下げるようにコントロールしています」

辨野さんによると、腸でのインクレチン分泌には腸内細菌が関わっているのではないかという見方も出てきているという。それが解明されると、糖尿病予防に役立つようになるはずだ。

 

辨野義己さん
理化学研究所イノベーションセンター推進センター
特別招聘研究員
1948年。大阪府生まれ。農学博士。専門は腸内環境学、微生物分類学。DNA解析により、新たな腸内細菌を発見し続けている。『免疫力は腸で決まる』『腸内フローラが病気を防ぐ』など著書多数。