習近平国家主席。「党中央の核心」と位置づけ権力の集中化を着々と進める習近平の野望とはなにか。

「私は中国のゴルバチョフにはならない」

 一部の改革派知識人が期待していた「習近平は、ゴルバチョフのように共産党一党独裁体制を変えていく改革者である」という説は、習近平自身が完全否定している。

 二〇一二年秋の党大会で総書記の地位に就いて間もない二〇一二年一二月に、広東省を視察した習近平は「新南巡講話」と呼ばれる重要内部講話を行っている。その内容は一般メディアには流れていないが、香港の広度書局が二〇一四年一一月に出版した『習近平内部講話』に掲載されている。いわゆる香港の消息筋がつかんだ裏のとりにくい情報や噂をもとに書かれる〝香港ゴシップ本〞だが、この講話に関しては官僚筋からも同様の話を聞いており、私は事実と確信している。

『習近平内部講話』

 その中で習近平は「なぜソ連は解体したのか? なぜソ連共産党は崩壊したのか?」と問題提起し、その答えを「城頭変幻大王旗」( 魯迅の七言絶句の有名なフレーズ。国民党軍閥によって長期混戦、政局不安に陥ったことを指す)と答え、軍閥(軍区)の独立性や、軍権の掌握不足を指摘していた。

 習近平はこう訴えた。「党が軍を指導することを揺らぐことなく堅持することがなぜ必要なのか。それはソ連の教訓をくみ取っているからだ。ソ連は軍隊の非政治化、非党化、国家化を進め、党の武装を解除した。一部の人物が、ソ連共産党を救おうとしても、専制の道具(軍)が手中になかったから、それができなかった。(守旧派によるソ連八月クーデターのとき)エリツィン﹇一九三一~二〇〇七/ロシア連邦初代大統領。民主化を推進﹈が戦車の上でロシア国民にクーデターへの抵抗を呼びかけ、兵士にゼネラルストライキを呼びかけたとき、軍は全く動かず、(守旧派と改革派の)〝中立〞を保った(このため守旧派のクーデターは失敗した)。最後はゴルバチョフが実に軽い一言でソ連共産党の解体を宣言。あれほど巨大だった党が一瞬でなくなった。党員の数からいえばソ連共産党は中国共産党よりも大きかったのだ。ただ、その党員の中に〝男児〞がいなかった。誰も抗うことができなかった」

 また二〇一三年二月二七日に中南海(ちゅうなんかい)[北京・故宮に隣接する地区。中国共産党の中枢を象徴する]に習近平は政策ブレーン三六人を集めて内部講話を行っているが、このとき「外国メディアに私のことを〝中国のゴルバチョフ〞と呼ぶ声があるようだが、私は絶対に〝中国のゴルバチョフ〞にはならないから、みな、安心するように」とも発言している。これは習近平の政策ブレーンにもなっているシンクタンクに所属する政治学者から聞いた話であり、また前述の書籍『習近平内部講話』にも収録されている内容だ。このとき、重ねて「強い軍隊を建設しなければ、米国が参与するハイテクの複雑な戦争に勝てない」という中国の軍事力不足の問題も訴えている。

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