南シナ海有事の現実味とは

 南シナ海有事が現実味を帯びてきたといえる今日、中国側には戦争する意志も〝大儀〞もある、と言われている。

 だが、すぐさま戦争が起きる、とは私は考えていない。

 なぜなら提訴した当事者のフィリピンの新しい大統領ロドリゴ・ドゥテルテ[一九四五~/第一六代フィリピン大統領。麻薬撲滅を掲げ、麻薬犯罪容疑者の射殺が二〇〇〇件以上に及び国際問題に]は、ハーグの国際仲裁裁判所の「中国は違法行為である」とする判決を歓迎するも、かねてから「絶対戦争はしない」と言明しているからだ。

ドゥテルテ大統領

 国際裁判所に仲裁を仰いだ前アキノ政権は明確な親米派だった。だが現在の大統領のロドリゴ・ドゥテルテは大学でフィリピン共産党の指導者シソンに師事した左派で、かなりの米国嫌いだ。新内閣にもフィリピン共産党から四人の閣僚を起用。フィリピン共産党に中国系資金が入っていることは結構知られた話であり、親中色の濃い内閣といえよう。

 ドゥテルテ自身は判決が出る前から「事態が動かないなら二国間協議で解決」ということを言っている。一方、中国側は経済支援を申し出る代わりに判決を棚上げし、南シナ海の共同開発という形に懐柔していく方針を内々に決めていて、その交渉力に自信を持っている。ただフィリピン、中国双方が戦争を回避して話し合いで決着をつけるとしても、それは平和とは程遠い。

 二〇一六年内にスカボロー礁の軍事施設を完成させ、二〇一七年に南シナ海上空に防空識別圏を設定し、二〇一九年までに海上移動式原発二〇基を南シナ海で稼働させる方針を、習近平政権がすでに決定事項としているということは、香港消息筋から流れている。「出ていってください」と口頭で言っても中国が素直に聞く耳を持つわけがなく、中国の南シナ海の軍事拠点化を完全に中止させるには、相応の強制力が必要で、それは経済制裁か軍事制裁ということになるが、中国にそういう圧力をかけることができる国が世界にいったいどのくらいあるのか。

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