イラスト/フォトライブラリー

建前としては江戸時代、女の立場は弱かった。男尊女卑の考え方が一般的だったのである。しかし実際には江戸の女はかなり強かった。そんな二例を、『甲子夜話』から紹介しよう。

(その一)
湯島あたりに住む鳶(とび)の頭の女房は、およしと言った。亭主が死んだあと、およしが鳶の者をたばね、その任侠は有名だった。

あるとき、湯島天神の境内の芝居小屋で武士が刀を抜き、暴れ出した。刀を振りまわすため、誰も近づくことができない。騒ぎを聞いて、およしが言った。「あたしが取り押さえましょう」
その場で、およしは着物を脱ぎ捨て、素っ裸になった。そのまま、芝居小屋にツカツカと入っていく。刀を持った男は、丸裸の女が現われたのを見て、ぽかんとしている。およしは男のそばに行くや、
「いったい、何をしているんだい」
と言うや、手をのばして刀を取りあげた。こうして、ひとりの怪我人も出すことなく騒ぎを鎮めた。

およしは陰部のそばに、蟹(かに)の彫物(入墨)をしていた。蟹がそろそろと陰門に入っていこうとする図柄だった。肌は白く、なかなかの美人だった。さしもの気の荒い鳶の連中も、およしの指図に逆らうことはなかったという。

(その二)
お加久という女は侠気で有名で、賭場でも男たちを平気で怒鳴りつけた。さしもの荒っぽい連中もお加久には口答えできなかった。陰部に蟹の彫物をしていたが、その図柄は、蟹が両方のはさみで陰門を開こうとしている様子だった。

銭湯に行くときは、緋縮緬の腰巻ひとつというかっこうだった。途中、道端にかがんで平気で小便をし、まったく恥じる色はなかった。あるとき、質屋に行き、着ていた着物をすべて脱いで真っ裸になった。
「全部、質に入れたい」
質屋の者が、あらわになった陰部を見てクスリと笑った。お加久が怒り出した。
「ホト(陰部)がおかしいのかい。世の中の女はみんなホトがあるじゃないか。あたしのホトは、ほかの女にくらべてどこかおかしいところがあるのかい」
大声で怒鳴り続ける。これには店の者も困ってしまった。詫び金を払った上に、渡された衣類もすべて返した。

前者のおよしは、まさに女侠客であろう。さっそうとしている。江戸の庶民の女には、男勝りの女傑が少なくなかった。後者のお加久は、度胸があるのはたしかだとしても、かなり品が落ちる。要するに傍若無人なだけではあるまいか。いわば女のごろつきであろう。

それにしても、ふたりとも陰部にしていた彫物の図柄が蟹というのがおもしろい。蟹は人気の図案だったのだろうか。いざとなれば、陰茎をはさみでちょん切るぞという威嚇の意味合いなのだろうか。