約20年前、多くの少女たちの心をつかみ、夢中にさせた『美少女戦士セーラームーン』。今の20代から30代の女性の中には、セーラームーンに憧れを抱いて幼少期を過ごした人も多いでしょう。
しかしセーラームーン以降、女子の”お手本”的な存在はとんと見かけなくなります――何故なのでしょうか?
今回は、今年『セーラームーン世代の社会論』を上梓したばかりの稲田豊史さんにご寄稿いただきました。

『セーラームーン』以降のロールモデル不在

先日、『セーラームーン世代の社会論』という本を書いた。アラサー女性の価値観は、彼女たちが幼い頃に見たアニメ『美少女戦士セーラームーン』(1992~97年放映)に大きく規定されているのではないか――という考察をまとめたものである。その出版記念イベントに来てくれた28歳の女性に、こんなことを言われた。

「男に頼らず敵と戦うセーラー戦士たちは、私たちの世代にとってある種のロールモデルです。でも私たちより下の世代には、共通原体験のアニメも、ロールモデルになるヒロインも、いないらしいんですよ」

たしかに『セーラームーン』放映終了後以降、セーラームーン並みに“あまねくすべての少女たち”がロールモデルとして憧れたアニメヒロインは思い浮かばない。

理由のひとつが、『セーラームーン』ほど人気を博す女児向けフィクションが登場しなかったことだ。

同じ東映アニメーション制作による『おジャ魔女どれみ』シリーズ(99?03年)や『プリキュア』シリーズ(04年~シリーズ継続中)は女児向けアニメのスタンダードとして存在するものの、前者は『セーラームーン』ほどの社会現象を引き起こしたとは言いがたく、後者は世界観と登場人物が1年ごとに一新するため、各作品が一過性の流行物となりやすい。5年にわたって同一キャラクターが活躍し続けた『セーラームーン』のように、「20代半ばからアラサーの女性」という広範な年齢層にわたる共通原体験とはなりえないのだ。

『セーラームーン』直後に大きな人気を博してアニメ化されたバトルファンタジー系作品としては、『セーラームーン』と同じ講談社「なかよし」連載の『カードキャプターさくら』(96~00年連載)や、集英社「りぼん」連載の『神風怪盗ジャンヌ』(98~00年連載)がある。いずれも大人気作だが、こちらも『セーラームーン』ほどの幅広さをもって女児を熱狂させたとは言えないだろう。

こうして90年代後半以降、「あまねくすべての少女たちがロールモデルに設定するヒロイン」不在の時代がはじまるのだ。